中小企業採用担当者の
リアルなお悩み相談室

採用した首都圏の学生が3〜4年で離職します。長く働いてもらうためにできることはありますか?

回答者プロフィール

南田修司
NPO法人G-net https://gifist.net/
代表

2017年よりNPO法人G-net代表理事に就任。
地域に特化した長期実践型「ホンキ系インターンシップ」は地方都市初の事業化に成功し、政府から度々表彰を受けるほか、全国の高校で採用される「政治経済」の教科書(実教出版)でも紹介されている。
また、2013年には中小企業の右腕人材に特化した新卒就職採用支援事業を開始、2018年には、兼業・複業に特化した社会人向けマッチングプラットフォーム「ふるさと兼業」を立ち上げた。
現在は、大学生700人が集うオンラインキャンパスの運営や、大学のカリキュラム開発支援、教職員向けの研修など地域と若者をつなぐ新たな仕組みづくりを進めている。

⾸都圏の⼤学に通っていた⼤学⽣を頑張って採⽤しても、Uターンじゃない人は3〜4年で離職しがちです。できれば⻑く働いてもらいたいと考えているのですが、何をどう気を付ければいいか、教えてほしいです。

(長野県長野市/商社/社員100名程度)

会社に残りたくなる理由を丁寧に積み上げていく

新卒採用3〜4年後の離職が多いということですが、100人未満の企業に就職した大学新卒者の3年後離職率は全国平均で約40%、30名未満の企業では約50%とも言われており(※)、若者が辞めていく課題を抱えているのは御社だけではありません。

※参考:厚生労働省サイト「新規学卒就職者の離職状況を公表します」

 

新卒に限らず、社会的に人材の流動性が高まり、売り手市場で転職のハードルも低くなっているため、いろいろな企業や働き方を比較しながら自分のキャリアを考える人が増えている状況です。そうした事実を踏まえた上で、「社員が残りたくなる会社」について考えてみたいと思います。

まず、社員が会社に残るのは、残りたくなる理由があるからです。それは、「今関わっている案件が面白いから」「給与・待遇が良いから」「職場の関係性が豊かだから」といった会社の制度や仕事に紐づく理由と、「伝統産業を守りたいから」「地域のネットワークや関係性が豊かだから」など、仕事以外のことに紐づく理由があります。

移住してきて働いている人は、地域で暮らすための手段として会社を選ぶこともあります。その場合、地域に魅力を感じなくなったり、地域での関係性につまずいたりすると会社を辞める理由ができてしまいます。人材が地域に根付く取り組みを個人に任せるのではなく、企業と地域が連携しながら、より良い環境を作っていくことが必要だと思います。

 

現在、自社には社員が残りたくなる理由がいくつあるのかを把握して、その理由を育てると同時に、増やしていくことも大事です。すべての社員に対応できる理由を整えるには、人も予算も足りないかもしれません。それでも何もしなければ、これまで通り3〜4年で人材が辞めていく会社のままです。人を惹きつけている中小企業はたくさんあります。そうした企業の成功事例を参考に、真似をしやすいことから取り入れながら一つ一つ積み上げていかれると良いと思います。

 

社員が会社に残る理由は、ライフスタイルの変化によっても変わります。「この会社で目指したいポジションがあるか」「大手企業に就職した友人と比べて、自分はどのくらい成長できているか」「結婚や子育てに合わせて柔軟な働き方ができるか」と考えた時に、新しいキャリアパスをちゃんと描ければ会社に残ることを選ぶはずです。しかし、特に中小企業で働く若手は、同僚や年齢の近い先輩が少なく、自分のキャリアパスをうまく描けないことに悩み会社を辞めるケースも多いようです。

新卒採用された時に考えていたキャリアパスと、がむしゃらに頑張る1〜3年目が過ぎた頃に考えるキャリアパスに変化があるのは当然です。採用時に、1年後、3年後、5年後のキャリアパスを見せている会社は多いですが、社員の成長やライフスタイルの変化を経たタイミングで、新しいキャリアパスを見せている会社はまだまだ少ないと感じています。

会社側から見ても、新卒採用時に期待していたことと、採用から3年経った時に期待したいことは変わっていくはずです。会社が期待することと、社員が描くキャリアパスにズレは生じるものですが、その期待値を調整しないと、離職に繋がる場合があります。

ただし、社員も会社とのズレを感じたからといってすぐに退職を決めるわけではありません。暮らしている土地を離れる寂しさや、セカンドキャリアの転職先が見つかるか分からない不安など、「辞めるリスク」も考えます。辞めるリスクと、会社の中でのキャリアップの可能性、会社との期待値のズレから生じる不安を比較して、ズレへの不安が閾値(しきい値)を超えた瞬間に、気持ちは退職へ傾いていくのです。こうした両者間のズレが、どこでどのように生じるのかを把握しておけば、打ち手も用意できるでしょう。

成長意欲や貢献意欲が高い人には、5~10年後に向けてどんなキャリアステップを歩めるのか、その力が誰の役に立つのかを提示していく。成長意欲があるわけではなく、安定した環境で働きたい人には、どのような働き方を選べるのか、ライフスタイルの変化に合わせた柔軟な働き方を目指す姿勢を示すといった対応ができると思います。

 

人が会社に残る理由として、給与や条件が大切なことは言うまでもありませんが、必ずしもそれだけではありません。成長意欲や貢献意欲を満たしてくれるなど、さまざまな残る理由にあふれている会社は、個性があって魅力があります。時代に合わせて前向きに、柔軟に試行錯誤しながら努力する企業は、人材にとってとてもユニークで、魅力的で、残りたい企業になるはずです。

社員に長く働いてもらうためにも、会社としてできることは何かを考え、自分たちなりの指標を持った上で、できる改善策を打っていく。そしてできるならば、その延長で、会社としてのブランド育成にも取り組んでみてください。地方の小さな会社であっても、社会にとって価値のある取り組みをしていて注目を集めていれば、働くことに誇りを持てる理由となり、人材が離れないどころか、集まってくる会社になれると思います。

最後に、これまで「社員が会社を離れる理由」を考えてきましたが、御社は、首都圏の学生から、新卒時の就職先として選ばれている企業だということを忘れないでください。Uターンではない首都圏の学生から選ばれる魅力をすでに持っているわけですから、その理由ともしっかり向き合うことをおすすめします。