中小企業採用担当者の
リアルなお悩み相談室

地元や地方で働きたいという、
遠方の学生へのアプローチ方法がわからない

回答者プロフィール

南田修司
NPO法人G-net https://gifist.net/
代表

2017年よりNPO法人G-net代表理事に就任。
地域に特化した長期実践型「ホンキ系インターンシップ」は地方都市初の事業化に成功し、政府から度々表彰を受けるほか、全国の高校で採用される「政治経済」の教科書(実教出版)でも紹介されている。
また、2013年には中小企業の右腕人材に特化した新卒就職採用支援事業を開始、2018年には、兼業・複業に特化した社会人向けマッチングプラットフォーム「ふるさと兼業」を立ち上げた。
現在は、大学生700人が集うオンラインキャンパスの運営や、大学のカリキュラム開発支援、教職員向けの研修など地域と若者をつなぐ新たな仕組みづくりを進めている。

UIJターン人材に興味はあるが、大手ナビサイトと地元の合同説明会などを利用しているため、地元学生は志望してくれても遠方の学生との接点を持てていません。
地元・地方で働きたい遠方の学生がどこにいるのか、アプローチの仕方が知りたいです。

(愛知県豊橋市/食品製造業/社員100名程度)

求職者に選ばれる理由を明確にして、組織体制を整える取り組みを

いきなり身も蓋もないことを申し上げますが、自分たちの地域で働きたいと思う遠方の求職者は、基本的にはほとんどいない、ということをまずは認識する必要があります。
そう考えたときに大事なことは、そんな稀有な方が自分たちの企業に入社したいと思ってもらうために、どんな情報提供を行い、どんな機会を提供すべきか、仮説を作って検証していくことです。

採用活動においてオンラインを活用することが増え、遠方の求職者であっても接点を持つことは容易になっています。
質問者の方も、大手ナビサイトを活用しているとのことですので、アプローチの仕方という観点では、「どう接点を作るか」よりも、「接点を持ったときにどう興味を持ってもらえるか」ということがポイントになってくると思います。

地域や業界に限らず、求職者に選ばれる企業には、選ばれる「理由」があるものです。
求職者にとってその「理由」は多種多様ですが、反対に企業側からの視点で考えると、どんな求職者と出会いたいか、そしてその求職者が自社で働きたいと思う「理由」は何なのかを考えていく必要があります。

この「理由」について、具体的に考えてみましょう。
例えば、自社と地域にある企業とを100社並べてみて、自社がナンバーワンであると言える要素はあるでしょうか。
最も柔軟に働けるとか、社員が自社のビジョンを最も語れるとか、最も若いうちから裁量を任せられるとか、求職者が選びたくなるポイントであれば何でも構いません。
もっとも、給与がいいとか福利厚生が整っている、などでもいいでしょう。
すぐには思い付かない方が大半ではないかと予想します。

ですが、これは今ナンバーワンでなければ駄目だ、ということではありません。
今後自社がどんな会社であると言えるようになりたいのかを考えていくことが重要です。
そこが明確になると、求職者の方と接点を持ったときに、興味を持ってもらえる確率が変わってきます。

ある地方中小企業の例をご紹介します。
その企業では元々、新卒採用を行っていませんでした。理由は「採用しても来ないから」というものでした。
ところが今では、安定して大卒の方を採用できるようになっています。
その企業に入社した方に話を聞くと「大手の選考も進んでいたけれど、大企業の小さい歯車になるくらいならこの経営者の右腕になりたいと思った」「小さな会社だけど、大きな歯車で、大きな裁量を持って共感した経営者の右腕として働く方がいいと思った」とのことでした。
選ぶ理由をしっかりと作り、伝えている企業は、最終ジャッジで大企業と比較された場合でも、選んでもらえる可能性が高まるのです。

一方で、自社の魅力が求職者に伝わったらそれで十分、とはなりません。
興味を持ってくれた求職者を、入社したいと思ってもらえるように期待感を醸成していくことや、入社してくれた方が定着するための組織体制を整えることもとても重要です。
特に組織体制への取り組みは、すぐにでも着手すべきです。
採用した人が働くその職場は、採用活動中に伝えた自社の魅力を感じられる場所になっているでしょうか。会社の目指したい姿は、経営者だけでなく現場の社員も理解して、日々少しずつでもそこに近づいているでしょうか。

求職者にとって魅力的な自社の理想像を掲げたところで、近づけていく努力をしていなければ、求職者にはすぐに伝わりますし、仮に入社をしてもすぐにミスマッチが起こり、離職してしまいます。
どんなにいい人を採用しても、定着しなければ目の粗いざるに水を入れるようなものです。
限られた予算でなんとか採用しても、その人がすぐ辞めていってしまえば、特に中小企業にとっては大きな痛手です。
組織体制は今すぐに変化が表れるものではありませんが、逆に一朝一夕ではできないからこそ、早め早めに手を打っていくことが重要です。

以上、回答をまとめると、重要なことは「求職者に選ばれる理由を明確にすること」「組織体制を整える取り組みに着手すること」ということになります。
厳しいことも申し上げましたが、もっといい企業にならないと駄目だとお伝えしたいわけではありません。

どんな企業でも、これまで事業を続けてきたという事実は、お客さんに選ばれる価値提供を行ってきたことの証明です。
その価値を、求職者目線で見つめ直して、語れるべきを語り、届けるべきを届けられるようにすることで、採用においても選ばれる企業に近づいていけると思います。

※文中の写真はイメージです