UIJターン者採用​ノウハウ

地方企業が首都圏の学生や第二新卒者を採用するために
最低限押さえておきたい4つのステップ

「うちみたいなところには、来てくれないでしょう?」と、首都圏にいる若手人材へのアプローチを、そもそも諦めてしまっている地方企業の皆さん。採用活動の進め方を見直すことでターゲット人材の関心度や応募率がぐんとアップするかもしれません。
地方企業の採用支援で数々の実績を持つ、採用コンサルタントの菊池龍之氏に、地方企業が首都圏の若手人材採用を成功させるためのポイントを教えていただきました。

プロフィール

michinaru株式会社 菊池龍之氏

1976年滋賀県生まれ。同志社大学卒業後、人材採用コンサルティングを手掛ける日本データビジョン株式会社で採用支援事業と事業立ち上げを経験。2011年に独立し株式会社コヨーテ設立。延べ300社を超える企業の採用事例を調べ、独自の採用メソッドを開発し2000社を超える企業に伝える。2020年、新規事業創出や人材採用などをサービスとするmichinaru株式会社を設立。人事向けイベントの企画、コンサルティング、講演、執筆など幅広く活動している。

働く場所が多様になった今、地方企業への注目も高まっている

新型コロナウイルスの拡大によって、「働く場所」に対する関心が高まっています。その動きは若手人材にとっても例外ではなく、地方企業に就職することを選択するケースが増えてきています。そのため、首都圏在住の学生や第二新卒者の採用を目指す地方企業にとっては、ある意味チャンスが訪れているといえます。では、この流れをどう掴むか。

まず取り組んでいただきたいのが、そもそもなぜ首都圏の若手人材を採用したいのか、その理由を改めて考えてみることです。働き方の多様化に伴い、人材確保の手段も幅広くなっている今、「なぜならば」は、きちんと再確認していただきたいと思います。私としては「5年後10年後に会社が生き残るために必要な人を採るため」というのが、狙いにいく大きな理由の一つになると考えます。ここで「低いコストでよく働く人材を確保するため」だと考えている企業は、労力やお金をかけて採用に力を入れても、うまくいきません。

首都圏学生の新卒採用成功のためのステップ1:ペルソナを描くSTEP 1

首都圏在住の若手人材の採用に力を入れる理由を再確認できたところで、次の一歩として考えていただきたいのが、「欲しい人材の定義」です。ワークショップなどでこれを話すと、採用に悩む企業の多くが「うちみたいな会社が人を選ぶなんて……」とおっしゃるのですが、その考え方は間違いです。ここが曖昧だと、自分たちが伝えるべきメッセージを考えることはできませんし、どこで採用活動を行えばベストなのかも見えてきません。会社の規模が小さければ小さいほど、欲しい人のイメージを絞りこむことがその後の成功を左右します。

さほど考えなくても、ほとんどの会社が、「〇〇大学の経済学部にいる学生」くらいは絞り込めます。大事なのはその先です。さらに、「休日は何をしていそうか」「どんなテレビを見ているか」など、細かいイメージまで、楽しみながら決めていきましょう。いわゆるペルソナの設定です。人物像が絞り込めると、ピンポイントで深く刺さるアピールの仕方を考えられるからです。

首都圏学生の新卒採用成功のためのステップ2:出会いの場を作るSTEP 2

ペルソナが固まったら、次は出会いの「場」を作ります。インターンでも説明会でも、形式は問いません。大切なのは、設定したペルソナ人材が行きたくなるような場にすること。一例を挙げると、ある地方のスーパーマーケットさんが「教育学部出身だけど教員になることを諦めた大学生」というペルソナを描きました。ペルソナの悩みは何かというと、就活のタイミングと教員になるための実習や試験がかぶってしまっていること。そのため、先生になることを諦めたころには、民間企業の就活も終わってしまっているのです。そんな「悩み」にフォーカスし、「先生になることを諦めたあなたのための就活講座をやります」と、ターゲットを絞ってアプローチしました。

他にも、私が採用戦略に携わらせてもらった企業に、社員数が8名、平均年齢が60歳を超える小さな造園会社さんがあります。そこでは東京にある農業系の大学で造園を勉強している学生をペルソナに設定しました。そして彼、彼女らの多くが研究のフィールドワーク先に困っていることに目を付け、まずはその会社が携わる現場をフィールドワーク先として提供することで、ペルソナとの接点を作りました。フィールドワークの時点では就職先として考えていなくとも、身近に接する機会さえ作れれば、そこから発展していく可能性は大きく広がります。結果的に、その造園会社さんは翌年からコンスタントに新卒採用を続けています。

このように、若手人材と出会う場を設ける上でも、ペルソナの設定がカギになってきます。多くの企業が、求人情報に書きがちな「大学生の皆さんへ」や「第二新卒者の皆さんへ」などの抽象的な宛名では、弱過ぎて気を引くことはできません。例えば「建築に興味があるけれど、地元にはイケてる建築会社がないと悩んでいるあなたへ」と具体的に書くことができれば、その悩みを抱える人の目に入った時に「まさに自分のことだ」と興味を持ってもらえる可能性がぐんと上がります。

ペルソナとの出会いの場づくりに有効な「インターンシップ」の設計について詳しく知りたい人はこちらの記事をご覧ください。

首都圏学生の新卒採用成功のためのステップ3:選考時は「動機付け」を意識STEP 3

無事ペルソナに設定した若手人材に出会うことができたら、次はいよいよ選考です。選考の際に一番忘れないでいただきたいのが、「企業も見極められている立場」だということ。上から目線で威圧的に面接をするのではなく、どうやって会社の魅力を伝え、応募者の動機を高めていくかに注力した方が良いです。面接をする側も、できれば応募者と近い年代の若手社員を出せると良いですね。

採用がうまくいっていない多くの企業では、自分たちが魅力だと思っていることが応募者にとっては全然魅力的ではなかったりします。よくあるのが「小さい会社だからみんな仲がよく、アットホームな職場」。それは他の会社でも同じことを言えますし、「小さい」という表現がネガティブに取られることもあります。いつもPRしていることが、本当に応募してきてくれた若手人材に響くのかどうかは一度考えてもらえたらと思います。

地方企業には、自分らしい暮らしができるとか、地域そのものの魅力だとか、アピールできる要素はたくさんあるはずですが、企業自身はそれを魅力だと捉えていないことがよくあります。就職する側は移住を伴うこともあり、どうやって暮らしていくのか、どんな街でどういう人がいるのかなどを伝えることで、不安を和らげてあげることもできるのです。反対に、自分たちのダメなところ、至っていない部分も選考中に話しておくのがいいと思います。隠すよりも、「だから力を貸してほしい」というコミュニケーションのほうが誠実ですからね。

首都圏学生の新卒採用成功のためのステップ4:若手社員とつながる機会を大切にSTEP 4

内定を出すことができたら、同期や若手社員とのつながりをぜひ作ってあげてください。特に移住を伴う場合は、学生時代までの知り合いも近くにおらず、生活の不安なども抱えがちなので、仕事以外の場所で悩みごとや考えていることをざっくばらんに話せるような関係性と機会が必要です。

内定を出せたことの達成感で終わらずに、きちんと入社して戦力になってもらうまでが採用です。私のワークショップでは、最後に「若手人材の三年後までのキャリアプランを勝手に描いてみる」というのをやっています。もちろん、実際のキャリアプランは本人が描きますが、会社としてペルソナが三年後にどうなっていたら理想かイメージしておくことは大切です。ひとまずそこを目指しながら仕事をしてもらい、うまくいかなかったら軌道修正ができる。ある程度道筋が見えるので、的外れな教育をしてしまうリスクも小さくなり、会社にとっても若手人材にとってもプラスになる形で働く環境をつくることができます。

ここまで、地方企業が首都圏在住の若手人材を採用するためのポイントを4つのステップに分けてお伝えしてきましたが、やはり一番大切なのは、最初にできるだけ具体的にペルソナを描くことです。ここでイメージした人物像が、その後の場作りからキャリアプランの設計まで、すべてにおいてカギになってきます。きちんとペルソナを描くことさえできれば、新卒採用の成功率はぐんと上がります。ターゲットを絞るのは勇気が要りますが、ぜひ「なぜ首都圏の若手人材を採りたいのか」「どんな若手人材を求めていて、その人に出会うにはどんな機会を作ればいいのか」を考えてみてください。

編集コラム

採用できた人材にいかに長く勤めてもらうかは、多くの企業の課題です。働き方改革がうたわれ、様々な制度改革が注目を集めていますが、従業員の定着にはどのような効果があるのか、入社3年目と7年目の社員の定着についてのデータを紹介します。

こちらのグラフは、3年目と7年目の従業員の定着率が上がった企業が取り組んだ施策がどのようなものだったかを表しています。最も多くの企業で取り組まれているのが「能力・成果等に見合った昇進や賃金アップ」、次いで「有給休暇の取得促進」「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」が挙がっています。

ワークライフバランスに関する施策ではこちらのグラフのような順位になっています。最も多いのは「休暇・急な早退等を申請しやすい職場雰囲気の醸成」、次いで「長時間労働者やその上司等に対する指導・助言」となります。どちらも従業員全体で協力し合ったり、管理職が気を配ったりすることが必要であり、制度を作るだけで終わらないことが重要と言えるでしょう。

従業員数別に会社の働きやすさを見た場合、100人超の企業より、100人以下の企業に所属する従業員の方が働きやすいと感じているというデータもあります。新入社員の定着率の上昇も同様で、従業員の少ない会社の方が、前述したような施策に取り組みやすいからかもしれません。中小企業の若手人材採用を後押ししてくれるデータと言えるのではないでしょうか?

採用できた人材に定着してもらうためには、労働環境や条件の見直しや、必要に応じた改善が常に必要です。従業員がより働きやすい職場になるように、施策に取り組んでみてください。