中小企業採用担当者の
リアルなお悩み相談室

同業企業に採用で勝つための差別化ポイントが見つからない

回答者プロフィール

菊池龍之
michinaru株式会社 https://michinaru.co.jp/
代表取締役

1976年滋賀県生まれ。
同志社大学卒業後、人材総合企業にて採用・教育のコンサルティングに従事。
2011年、株式会社コヨーテを設立。
国内外300社を超える採用事例を研究し、独自の採用メソッド「ペルソナリクルーティング®」を確立。多くの企業の採用変革に携わる。
2020年4月、「変化を起こす挑戦者を創る」をミッションに、事業創造・リーダーシップ開発・採用といった組織課題を解決するmichinaru株式会社を設立。

同じ業種の企業が同じような求人を出しているので、どうしても内容が似てしまいます。福利厚生や仕事内容、キャリアアップの機会など、どこも大きな違いがなく、差別化した表現が見つかりません。
求職者から見たら「どの会社も同じに見える」のではないかと感じています。自社ならではの強みをどう掘り出し、どうアピールすればよいのか悩んでいます。

(福島県郡山市/製造業/30名程度)

「どの会社も同じに見える」悩みを超えるには

■差別化の限界

まず率直にお伝えすると、数多くの求人が並ぶ中で「明確な差別化」を見つけるのは至難の業です。給与や勤務地、福利厚生の条件面ではある程度差が出ますが、それも「特別な強み」とまではなりません。

だからこそ「どう差別化するか?」という問いだけに縛られると、無理やりアピールポイントを作り出そうとしてしまい、かえって実態とずれる危険があります。

あるサービス業の人事担当者はこう嘆いていました。

「『風通しの良い職場です』とか『成長できる環境です』とか…考えれば考えるほど、結局は他社と同じ言葉しか出てこなくてがっかりします。」

この「似たり寄ったり感」に苦しんでいる企業は、実は少なくありません。

 

■「差別化」に囚われる弊害

差別化という言葉に縛られると、どうしても「比較思考」に陥ってしまいます。「競合企業より給与はどうか」「福利厚生は見劣りしないか」と、他社との比較ばかりしてしまい、自分たちが大切にしたいメッセージや語りたいストーリーがないがしろになってしまう弊害があります。

また同時に「小手先の工夫」ばかりに気を取られる傾向も強くなります。オフィス設備や流行りの制度を打ち出しても、それは強い魅力にはなりません。バブル期の採用市場では優秀な人材欲しさに「豪華な社員旅行」や「内定承諾したら車をプレゼント」などをアピールした企業がありました(最近また違った形で内定者に対して事実上の現金給付を打ち出す企業が出てきました)。しかしこうした「小手先の工夫」に惹かれる人材の多くは入社後のエンゲージメントも低く、長続きしません。

そして一番の弊害は、残るのは「結局うちの会社は何が魅力なのだろう?」という採用担当の虚しさ。これこそが、差別化に縛られすぎることの落とし穴です。

 

■差別化から共感へ

では、どうすればこの行き詰まりを抜け出せるのか。その答えのひとつが「差別化」ではなく「共感」を軸に考えることです。求人メッセージを考える際にこの視点を変えることが大きな変化を生み出します。

差別化とは「他社とどう違うか?」という競合起点の問い。
一方、共感は「求職者はどんなことに心が動くのか?」という相手(求職者)起点の問いです。

皆さんが求人メッセージを考える時、頭に浮かんでいるのは競合企業ですか?それともメッセージを届けたい求職者の顔ですか?そしてもしあなたが求職者の場合、どちらのメッセージが心に響くでしょうか。

ある老舗の部品メーカーは、求人サイトにこう書きました。

「私たちは不器用な会社です。スピード感では他社に劣ります。しかし、常に技術を磨き高い品質を追求しています。」

質へのこだわりを磨くと、他社よりスピードは劣る。あえて、この劣る部分を強調することで、余計に「質へのこだわり」の強さを感じませんか。「不器用さ」は差別化要素としてはマイナスですが、このメッセージでは「共感要素」としてプラスになったのです。

なぜ「共感」が重要かを心理学の観点から補足すると、人は合理的な条件比較よりも「自分の価値観と合うかどうか」で意思決定をする傾向があります。ある大学の研究では、キャリア選択において「給与」や「福利厚生」よりも「組織の価値観への共感度」が定着率やモチベーションに強く影響していると報告されています。つまり、どれだけ条件面で差をつけても、心に響く物語がなければ長期的な採用成功にはつながらないのです。

 

■「誰に共感してほしいか」を描く

共感を生み出すうえで大切なのは「誰に共感してほしいか」を明確にすることです。
私は全国様々な地域で採用に関するセミナーや勉強会を主催してきましたが、採用に苦しむ多くの中小企業が、自社の欲しい人材像を描けていません。
そこには「どうせ描いても、その通りの人なんか来てくれない」「本当に人手不足で大変なので、来てくれるなら誰でもいい」。
そんな気持ちが採用担当の背後にあるのです。しかし、どうでしょうか?
もしあなたが求職者として「誰でもいいから来てほしい」と思っている会社の門を叩きたいですか?『誰でもいいは誰も来ない』のです。
思い浮かべるのはスーパーマンのような人物でなくて良いのです。そして、すべての人に好かれる必要はありません。
むしろ「最近入社した”Aさん”」のように特定の人に深く届いた方が、長期的に見て良い採用につながります。

事例① 地域に根ざしたメーカー

地元で腰を据えて働きたい人に来てほしいと考えた会社は、求人に「毎日18時には工場の灯が消える会社」と書きました。
都会的な刺激を求める人には響きませんが、家族との暮らしを大事にしたい人にとっては大きな共感ポイントになりました。

事例② 1969年のソニーの求人

1969年、ソニーは大胆な求人広告を出します。そこには「出るクイ」を求む!-ソニーは人を活かす-と書かれていました。「出る杭」は打たれるから、あまり出しゃばるな、和を乱すな、と言われてきた日本人にとってはインパクトのある求人です。多くの人は響かないが、一部の人にだけ強く響く。まさに当時のソニーの人材に対する強い想いが感じられます。

(「求人広告半世紀」 株式会社リクルート より)

 

■共感を生むための3つのアプローチ

では、実際に共感をどのように形にすればよいのか。3つのアプローチ方法をご紹介します。

① 求人に「宛先」をつける

私は求人を「ラブレター」に例えるのですが、皆さんの求人にはラブレターの宛先は描かれていますか?
実は多くの求人は、誰に読んでほしいのかが書かれていない「宛先のないラブレター」ばかりです。ですが、宛先を明確にするだけで、言葉の響き方はまったく変わります。
例えば、「食べるのは好きだけど、料理は苦手なあなたへ」とか、「地元ではデザインにこだわった建築には関われないと思っている方へ」など、最初に添えるだけで、「あ、自分のことだ!」と感じる求職者が出てきます。
宛先をつけることで、メッセージが「みんなに向けた宣伝文句」から「あなたに届いてほしい言葉」に変わるのです。

② 未熟さも恐れず出す

共感という観点では、完璧な会社像をアピールするよりも、「課題があるけど一緒に変えていきたい」という姿勢が共感を呼びます。
例えば、女性の営業職が少ない会社は「我が社の営業部の女性はたった3人。だからこそ、もっと女性が活躍できる環境づくりを頑張ってます。」というメッセージを打ち出し、実際に取り組んでいる事例をいくつか紹介していました。
未熟であるからこそ、そこを伸ばしたいという会社の意思は共感を呼びます。

③ 価値観を言葉にする

3つ目はストレートですが、「私たちは〇〇を大切にしています」と自分たちの価値観をまっすぐに言葉にすると、同じ考えを持つ人の共感が得られます。
ただ、自社が大切にしたい価値観が何かと問われると困ってしまう方も多いと思います。価値観を考える際に大切なのは対比して考えてみることです。
例えば「私達は、短期的な利益よりも、長期的な利益を大切にしている」とか「利益の投資先は何よりも人材育成に回している」など。
自社が大事にしたい価値観を堂々と伝えてみてください。

 

■差別化よりも、共感で選ばれる会社へ

採用活動のゴールは「応募数を増やすこと」ではなく、「共に働きたいと思える人と出会うこと」です。そのためには、他社と比べることより、自社の言葉で求職者に語りかけることが欠かせません。
「差別化しなければ」と肩に力を入れすぎず、まずは「誰に共感してもらうか」を意識して、会社が創業から大切にしている考えや、職場で口癖のように出てくる言葉を拾ってみてください。そこにこそ、求職者の心を動かす種が隠れています。