UIJターン就職者が
働きやすい現場づくり

地方の中小企業がUIJターン人材を採用し、
定着・活躍に導くための心構え
~自社の“今”が分かるチェックリスト付き~

地方企業がUIJターン人材を採用し、その後も早期離職せず活躍してもらうには、どのような工夫や準備が必要なのでしょうか。全国の人材ビジネス企業が集まる「ふるさと就職応援ネットワーク(通称:Fネット)」会長の山田哲也氏にお話をうかがいました。
記事の最後には、インタビューの内容を元に作成した採用・定着のためのチェックシートを用意しましたので、ぜひ自社の採用活動に役立ててみてください。

この方に、お話をうかがいました

ふるさと就職応援ネットワーク会長
山田哲也氏(株式会社名大社 代表取締役)

ふるさと就職応援ネットワークは、地域密着型で人材ビジネスに取り組む日本各地の企業が相互に呼び掛けることで、2008年に結成した任意の全国組織。12社からスタートし、現在、北海道から沖縄まで加盟企業は23社(2020年9月現在)に広がる。
地域や企業の活力になる人材の採用と、ふるさとで活躍したいと思う学生および求職者の役に立つ情報を発信し、地域や地場産業の発展に貢献することを目的とする。各地の加盟企業の総力を結集し、全国レベルの情報やサービスの提供を行っている。

物理的な距離があるからこそ、腹を割って情報開示を

地方企業の多くは、知名度や条件の面で首都圏の大手企業にはまず勝てません。ですが、採用した人材に定着してもらうために地方中小企業がまずすべきことは、条件や待遇を良くすることではありません。必要なことは、ある種完璧ではない面も含めて情報開示をすることです。どのような会社なのか、採用の時点で社風や条件などを積極的に開示することで、入社前にミスマッチを防止することが重要です。

例えば、残業時間や繁忙期の休日出勤の有無について、きちんと開示しておけば双方で合意ができ、入社後に変な誤解が生まれることはありません。求職者は休日や残業の有無を重視することが多いですが、まったく残業したくない人しかいないわけではありません。許容範囲は人によって異なりますし、むしろ成長の機会と捉える人もいます。「忙しい時期は月〇時間程度の残業があって、2月3月は申し訳ないけど休日出勤してもらうこともある」といったように、事実を細かに説明しておけば、入社してからギャップを感じることはないでしょう。

他に、昇進のスピードや評価、仕事内容については、先輩社員をモデルとして伝えるといいと思います。 何歳で、どんな仕事で活躍しているかを話してもらうことができれば、会社に勤め続けた先の姿をイメージできます。若手社員と求職者が直接話せる機会を設けるのも一つの方法です。何年目でどんな仕事に取り組んでいるかなど、給与面だけでない話ができるといいですね。

制度だけでなく、人間関係や社内の雰囲気を伝えることも大切な情報開示です。移住を伴う就職・転職の場合は、会社の人間関係が生活の大部分を占めます。特にIターンの場合は、友人たちや家族と離れて知らない土地で働くことになるので、不安が大きいでしょう。若い人の退職理由は、給与などの条件面より人間関係の問題の方が多いのです。そのため、会社の雰囲気が合いそうかどうか、判断材料を与えられるといいでしょう。

例えば、先輩との接し方についても、フラットな人間関係を好む人もいれば、仕事での上下関係はきっちりしたい人もいます。仕事とプライベートが分かれているかどうかも、人によって好みがあるでしょう。「若い人はドライで飲み会を嫌う」とはよく言われることですが、必ずしも全員がそうではありません。むしろ地方に就職する若者の中には、職場の人と仲良くなりたい、先輩に飲みに連れていってほしい人も多くいます。UIJターンの場合、社内の雰囲気を伝える機会が少ないからこそ、少し突っ込んだところまでしっかり伝えましょう。

会社一丸となって採用活動に向き合う

地方中小企業が若者を受け入れるためには、採用に会社全体で向き合うことが必要です。若い新入社員の受け入れ体制を整えるには、採用活動の状況を全社で共有するなど、採用を一部の担当者だけの仕事にしない工夫が必要です。自分たちの会社に迎え入れたことを、各部署のリーダーたちが理解し、受け入れられることが大切です。
会社全体で採用の情報を共有し、関心を持っている状態にしておくには、会社の情報共有ネットワークや社内報にトピックスとして上げるというのも有効です。一部の担当者だけの仕事にせずに、会社全体が気にかけることで受け入れ体制を作ることができれば、新入社員に安心感をもって働いてもらえます。

入社後の受け入れ体制に関連する話で、就活生から教育制度についてよく質問される、という相談をクライアント企業から受けることがあります。しかし実際のところ、就活生が研修のカリキュラムで入社を決めることはありません。彼らの本音は、仕事についていけるかが不安で安心材料が欲しい、ということなのです。教育制度を重視するのは、その不安の裏返しといえるでしょう。ところが、中小企業の多くは大手企業ほどの教育制度を用意できず、頭を抱える担当者も多いです。無理に制度を整えようとするのではなく、まずは会社全体で新入社員を受け入れ、質問や勉強の機会を作ることで、新入社員が安心できる環境を整備していきましょう。

社長は、たとえ採用の実務に関わらなかったとしても、どのような人が入社するのかを、現場で採用に携わった人たちから吸い上げて、把握しておくべきです。
そして、実際に採用を始める前に、トップと現場でビジョンを共有しておくことも必要です。就活生に会社がどんなところか伝える際に、人によって言うことがバラバラでは困惑させてしまいます。たとえトップがカリスマ経営者だったとしても、現場とのギャップや世代間の認識の違いが大きいと、若手はうまく定着していきません。会社全体が同じ方向を向ける環境を、トップがつくっていくことが大切です。

変化に柔軟な企業が生き残る

※写真はイメージです

新しい働き方が推奨される今、地方の中小企業だからといって時代遅れでいいわけではありません。この変化を前向きにとらえ、動くことができる企業とそうでない企業で、今後ますます差が開くことが考えられます。

採用活動においては、オンラインで場所を問わず説明会や面接を行えることで、遠方に住むUIJターン就職者にリーチしやすくなりました。そうした方法を取り入れる一方で、オンラインでは分からない部分を伝えるために、対面で会うチャンスを大切にすべきです。

遠くに住むターゲットにアプローチする方法は他にもあります。地方企業の多くは知名度が低く、学生は情報収集に苦労します。どこから情報を得るのかというと、Uターン希望の学生の場合、地元に残っている友人に聞くことが多いんです。今の若い人は、多くがSNSなどで地元の友人とつながっています。そのため、UIJターン希望の学生に直接アピールするのもいいですが、その前に地元学生との接点を意識することはとても有効です。地元大学の部活やサークルに協力したり、インターンシップを受け入れたりと、本格的に学生が就職活動を始める前にアプローチをしておくと、都市部に住む若者にも届きやすくなります。

また、リモートワークなどの新しい働き方を取り入れ、求職者に提案することで、優秀層の採用にもつながります。東京にいながら地方の企業で働く選択肢を取る若者も出てくるかもしれません。今の状況に対応できない企業は、都市圏、地方に関係なく取り残されていくだろうと思います。歴史と知名度がある会社でも、オンラインなどの新しい働き方に取り組む機会を作らないと、今後は学生の目に留まらなくなってしまいます。若い人たちがどういった感覚とフットワークで情報収集をしているかということに寄り添っていけないと、どんなに優秀な会社でも採用は難しくなります。逆に、新しい働き方や価値観を受け入れ、柔軟に変わっていける会社は、立地や規模に関係なく、人材が集まり、定着していくのではないでしょうか。

自社の“今”が分かる
チェックシート

本チェックシートは、山田さん他、ふるさと就職応援ネットワークの皆さまへのヒアリングを通じて編集部で作成しました。リストを利用し自社の“今”を振り返り、足りていない部分は補強しながら同時に採用活動を進めることをおすすめします。

情報開示をし、入社後のギャップをなくす

  • 1.採用活動の中で残業時間、福利厚生や評価制度などについて誤解のないように説明できていますか?
  • 2.採用活動の中で先輩後輩の関係性や、プライベートでの関わり度合いを伝えていますか?
  • 3.会社全体のビジョンが求職者に説明できるレベルで共有できていますか?

採用活動・教育に全社で取り組む

  • 4.採用活動の状況を全社で共有できていますか?
  • 5.採用担当や現場が、相談や一緒に勉強ができる機会を作るなど、入社後に新入社員をフォローしたり育てたりする環境が準備できていますか?
  • 6.社長自身が、直接採用業務に携わらなくても、採用活動にコミットし、求職者や内定者、新入社員のことを気に掛けていますか?

新しい働き方を柔軟に取り入れる

  • 7.オンラインでの採用活動を取り入れていますか?
  • 8.リモートワークや副業についての自社のスタンスを求職者に伝えられていますか?

UIJターン希望者に向けてアピールする

  • 9.求職者と出会うためにハローワークや大手ナビサイトに頼るだけでなく、就活前からアプローチするなど、独自の取り組みができていますか?
  • 10.会社の魅力と一緒に地域の魅力もアピールできていますか?

いかがでしょうか?自社の採用・定着に関する課題が見えてきたら、スピード感を持って取り組むことが大切です。今を振り返ることで、3年後、5年後、10年後、採用した人材が定着=活躍する好循環がみえてくるはずです。