

地方企業の採用応援インタビュー
〈UIJターン就職者が働きやすい現場づくり〉
“女性が選びたくなる”
地方企業が、採用・人材定着力を高める
地方企業が自社の採用力を高め、人材定着を促すひとつのカギ──。それは「女性の働き方」をアップデートすることではないでしょうか?
女性の働き方をアップデートすることは、結果的に、会社全体の風通しをよくする取り組みにつながります。地方女性のリアルな声を収集・発信することで、地方での働きづらさや生きにくさを可視化するプロジェクト「地方女子プロジェクト」発起人・代表の山本蓮氏と共に、人材不足に悩む地方・中小企業がこれからできることについて考えました。
この方に、お話をうかがいました
地方女子プロジェクト 発起人・代表
山本 蓮(やまもと れん)氏
1999年山梨県生まれ。就活中に感じた不公平や差別をきっかけに、2024年、「地方女子プロジェクト」をスタート。地方出身・在住の女性のリアルな声を収集・発信し、企業や自治体に届けている。当事者による地道な活動が評価され、2024年6月にはNHK「クローズアップ現代」にて放映。2025年3月には総理大臣官邸にて、石破内閣総理大臣らと意見交換を行った。
地方に求められるのは、女性が選びたくなる企業
多くの地方・中小企業にとって、人材確保は大きな課題です。知名度や利便性、その他の条件面で、地方都市や首都圏の大手企業と競うのは容易ではありません。そうした中で、採用や人材の定着につなげる方法の一つとして「女性の積極採用や適切な評価」があると、山本さんは言います。
「地方企業では女性が活躍できない──。そんな声が私のもとには数多く届きます。だからこそ、女性が働きやすい環境を整えることは、企業の大きな魅力の一つになるはずです」。
【地方女子プロジェクト】
URL:https://www.instagram.com/chihoujoshi/
若い女性が都市部へ流出することが、人口減少や地域衰退の一因となっている──。そうした社会課題を背景に、地方女子プロジェクトでは、地方出身・在住の女性「地方女子」のリアルな声を集め、動画で発信しています。代表の山本さんを中心に2021年から活動が始まり、これまでに10代後半から30代の地方女子100人以上の声を集めてきました。さらに、それらの声を政治の場や地域のステークホルダー、企業、自治体に届けることで課題を共有し、解決に向けてともに考える場をつくることにも力を注いでいます。
2025年3月31日、山本さんは、届いた声を若者や女性が働きやすい環境整備の検討に役立ててもらおうと、総理大臣官邸で開かれた意見交換会に出席。直接、当時の石破内閣総理大臣に収集した「地方女子」の声を伝えました。
実際に山本さんのもとに届く地方女子の声には、以下のようなものがあります。
(※読みやすさを考慮し、一部編集を加えています)
▶︎実際の声① 地方には、自分のスキルに見合う仕事がない
「ニュージーランドの大学でホテルホスピタリティを学んだので、就職するときは『英語を使ってホテルで働きたい』と思っていました。けれど、地元にはそういう職場がなくて、そもそもホテル業界自体があまり活発ではなかったんです。
キャリアチェンジのために一度地元に戻ったときも、就職先といえばビジネスホテルしかなく、それまで外資系ホテルで積んできた経験やマネジメントスキルを生かせる場所は見つかりませんでした。培ってきたスキルを生かして地元に貢献できるという感覚も持てなかったんです」(30歳・岩手出身)
▶︎実際の声② “女性らしい”働き方、振る舞い方を求められる
「育った場所だから、地元にはもちろん愛着があります。でも、大学進学のときには『地元を出たい』と強く思っていました。自治体の集まりがあったんですが、正直楽しくなくて。女性が料理をよそったりビールを注いだりしている横で、男性はにぎやかに話したり食べたりしている。そういう景色を見ていると、『私も将来、こんなことをしなきゃいけないのかな』と考えてしまいます。東京が令和だったら、地方は今も江戸時代だなって」(19歳・山形出身)
「育った場所だから、地元にはもちろん愛着があります。でも、大学進学のときには『地元を出たい』と強く思っていました。自治体の集まりがあったんですが、正直楽しくなくて。女性が料理をよそったりビールを注いだりしている横で、男性はにぎやかに話したり食べたりしている。そういう景色を見ていると、『私も将来、こんなことをしなきゃいけないのかな』と考えてしまいます。東京が令和だったら、地方は今も江戸時代だなって」(19歳・山形出身)
山本さんは言います。「地方女子たちはみな、『どうしても地元を出たい』と確固たる意志があって地元を離れるわけではありません。それでも離れる決断をし、東京で働き続けるのは、やはり地方に自分らしくいられる仕事や職場、コミュニティが少ないことが最大の理由です」。
そんな課題意識を持ちながら、各地の企業や自治体への視察を行ってきた山本さんは、「働く女性たちの声をうまく取り入れ、企業文化に合った改革を行っていくことで、採用課題が解決し人材定着がうまくいった企業もあります」と続けます。
慣習・風土の刷新に必要なのは
「客観的な視点」と
「適正な評価」
成功事例の一つとして山本さんが挙げたのが、日本最大のかばんの産地・兵庫県豊岡市に本社を構えるカバンメーカー「株式会社由利」です。山本さんは以前同社を視察し、株式会社由利が進める改革──業務整理や、女性管理職の登用などによって会社全体の風通しが大きく変わった様子を目の当たりにし、感銘を受けたと言います。
改革の背景について、株式会社由利の代表取締役・由利昇三郎さんに聞きました。
「大学卒業後、家業であるこの会社に入りましたが、当時は経営陣も幹部社員もすべて男性が担っていました。男性社員は残業や出張が当たり前で、一方の女性社員の主な業務は縫製などに限られ、外に出る機会はほとんどありません。やがて女性だけではなく男性社員の離職もあり、2019年頃から改革に踏み切りました」。
まず着手したのは、豊岡市が主催する「豊岡市ワークイノベーション表彰~あんしんカンパニー~」へのエントリーでした。性別を問わず誰もが働きやすい職場づくりを目指すこの制度を活用し、社内環境に関する無記名のアンケートを実施。由利社長は、「最初にアンケート結果を見たときは、心が折れそうでした。たくさんの辛辣な不満が並んでいましたから」と、当時を振り返ります。
「豊岡市の担当者には、『これだけ不満が出てくるということは、会社に期待があるんですよ』と勇気づけられました。それなら頑張ってみようと、社員と経営陣それぞれの意見を聞いてもらうための社労士を雇い、男女の働き方や会社のモラルについて勉強する会を開いたり、残業時間と入退社時間を見直したり、小さなことも大きなことも社員からの声を反映していきました」。そんな改革に応じるように、少しずつ社員の意識も変わっていったと由利社長は話し、「本気で変えようとしている姿勢は、伝わるものですね」と笑顔を見せてくれました。
改革の成果は、社員のキャリアにも表れています。勤続22年で、現在は貿易部門の係長を務める宮田久美子さんはこう話しました。
「役職をいただいた当時は、率直に『今さら?』と思いました(笑)。同期の男性社員たちは、当たり前に役職に就いていましたから。このまま評価されることもなく一社員として終えるのだろうと思っていたのですが、機会をいただいたことで、今までやってきたことは間違っていなかったんだと感じました。また、部下を育てていく責任感にもつながったように思います」。
後輩に仕事内容を伝える宮田さん(写真左)
改革の中では、一般社員、主任職、係長、課長など、それぞれのクラスの業務内容が明確に示されたことも良かったと話す宮田さん。「評価軸が分かりやすくなったことで目標も設定しやすくなりました。さらに、『お母さんから良い会社だと聞いて入社しました』と語る新入社員も出てきて、風通しの良さや、待遇や条件の改善を実感しています」と続けます。
由利社長は、「私自身もそうでしたが、中小企業の経営者というと、やはり利益を残すこと、会社を継続することを重視してしまいます。それと『社員が喜ぶ会社にする』ということは、時として相反するように見えるのです」と語ります。
「例えば、採用活動の中で若い方々が必ず確認する『完全週休二日制』。導入しようとすると、会社としてはより短い時間の中で、目標に到達してもらう必要が出てきます。私はそのとき、社員に言ったんです。『まずは社員の待遇、賞与、給料を優先させるから頑張ってほしい。そのために私も体制や考え方を改めるから』と。経営者が腹をくくると、その決意を社員は見ています。結果的に、社員のモチベーションが上がったことで、業績も上向きにすることができました」。
女性・若者が働きやすい会社に向けて──
行政を味方に、“これから”をつくる改革を
山本さんは、地方女子の声を聞きながら、株式会社由利だけではなくさまざまな地域の事例に触れてきました。そこで見えてきたのは、「人材不足に直面する地方の中小企業は、日々の業務に追われるあまり、会社をどう変えていくかにまで意識が向けられていない」という現実です。
「どの企業さんも、毎日のお仕事に全力を尽くされていると感じています。その中で改革を進めるのは簡単なことではありません。その上で、やはり女性や若者の働き方をアップデートしていくことは、長い目で見れば会社を支える力になると思うのです」。
株式会社由利で改革が進んだ背景には、由利社長の覚悟がありました。「経営者や人事担当の方には、採用や評価の中に“男性だから/女性だから”という偏見が入っていないか、子育てしながら働ける環境は整っているか、既婚・未婚や子どもの有無で判断する会社の雰囲気はないかといった視点も、改めて見直していただきたいと思います」。
最後に、山本さんは「改革をすべて社内だけで抱え込む必要はないと思います」と締めくくります。
「似たような課題は、他の多くの企業も抱えています。ですから、困っていることを市役所に相談する、町の課題として挙げてみるなど、行政・自治体を巻き込んでいくことで解決される可能性があると思います。
私の活動は、働く女性たちの声を集め、発信すること。同じように、経営者の皆さんの声も可視化されれば、変化を後押しできるはずです。悩みを悩みのままにせず、『どうしたらいいのか困っている』と声を出すことが、次の一歩につながっていくのだと思います」。
