地方企業のインターンシップ
の取り組みと好事例
インターンシップから右腕人材を
採用するための3つの条件
インターンシップを通じて、優秀な若手人材を獲得する地方の中小企業が増えています。一体、どのようなインターンシップをし、採用につなげているのか。人材育成を通じた地域活性に取り組み、企業のインターンシップ支援の実績も多いNPO法人「G-net」代表の南田修司氏に、インターンシップから採用成功に導くためのポイントをお聞きしました。
この方に、お話をうかがいました
NPO法人G-net代表 南田修司氏
2017年よりNPO法人G-net代表理事に就任。中核事業である長期実践型「ホンキ系インターンシップ」は地方都市の企業としては初めて事業化に成功し、政府から度々表彰を受けるほか、全国で採用される高校「政治経済」教科書でも紹介されている。また、13年より行う、中小企業の右腕人材に特化した新卒採用支援事業も大きな注目を集めている。現在は、蓄積したインターンシップのコーディネートノウハウを活用し、大学教職員向けの研修や、カリキュラムの共同開発、社会人向けのプログラム開発も行い、地域と若者をつなぐ新たな仕組みづくりを進めている。
新商品を開発する、入社2カ月目の新卒社員
入社前からアルバイトとして働き、補助金申請を一人でこなす新人。大手企業の内定を断り、地方の中小企業への入社を決める大卒社員。社長以上に、企業ビジョンを自分の言葉で語れる入社1年目。これらは全て、地方の中小企業がインターンシップを実施して採用に至った人材です。大手企業の社員も驚くような、ときには会社を背負うような “若手の右腕人材”を採用できる可能性を秘めている。それが、インターンシップです。
なぜ、地方の中小企業に優秀な人材が集まりだしているのか。理由は大きく2つあります。1つは、20代前半の人材は条件面だけで就職先を決めなくなっていることが挙げられます。結婚や育児というライフイベントを迎える前の若い世代は、今すぐまとまったお金が必要というわけではありません。そのため20代を成長期間と捉え、仕事のやりがいや会社の目指す姿に対する納得感で企業選びをする傾向があります。
2つ目は、会社のビジョンやミッションをしっかり伝えることで、新卒社員の共感を得られやすいためです。新卒社員は、良くも悪くもまっさらです。たとえ経験が浅くとも目指す方向が定まれば、彼らはスピード感を持ってビジョン実現に向けて伴走してくれます。経営者と同じ世界を見つめようとするので、将来、会社を背負って立つような経営幹部候補としての成長も期待できるようになるのですね。
インターンシップで“右腕人材”から選ばれるための3つの条件
インターンシップで学生を受け入れることは、組織や事業に変化をもたらします。プログラムを実施することで、着手したくても取り組めていなかった新たな挑戦や事業を具体的に形にできるだけでなく、社内に人材育成のノウハウが蓄積したり、組織の活性化や若手社員のモチベーションが向上するなど、中小企業の多くが抱える「組織開発」「事業開発」の課題解決にも効果が期待できます。これらを通じて、人が集まる会社となり、右腕人材の獲得につながるのです。そのためには、以下の3つの条件が重要となります。
1.好奇心をくすぐるインターンシップ・プログラム
インターンシップに応募する学生は、その企業の勤務条件より、インターンシップのプログラムに対する関心が強いです。有名企業であれば社名だけでも人数を集められますが、無名企業、さらに地方となるとそうはいきません。プログラム内容に工夫が必要となります。
実例を挙げると、合羽メーカーのある企業様では「子どもの交通死亡事故をゼロにするための、デザイン性と安全性を両立したレインコートを作りたい」というプログラムを打ち出したところ、意欲ある学生からの応募がありました。「いちご農家のマーケティングを任せたい」と打ち出した企業には、ベンチャー企業等でのインターンシップ参加経験があり、SNS等の運用で成果を上げた学生からのエントリーもありました。
※写真はイメージです
他にも、岐阜の木升メーカーでは「日本の伝統産業を世界に届けたい」と打ち出したところ留学経験のある学生や帰国子女の学生などが集まり、人気アパレルブランドへの納品が決まるという成果も挙げています。「うちの製品は学生に興味を持ってもらえなさそう」と諦めるのではなく、社会課題の解決など企業が目指す取り組みとして届けることで、感度の高い学生の興味を惹きつけることができます。
ただ、普段から慣れ親しんでいる自社製品・サービスであるため、客観的な良さが見えにくいというのも現実にあります。その場合は、採用サービスのプロといった第三者からアドバイスをもらう、もしくは、フラットな視点をもつ学生に自社製品・サービスの新しい可能性を探してもらうというプログラムを企画するのもいいですね。
2.企業ビジョン・ミッションをしっかり伝える
大それたビジョン・ミッションである必要はありません。企業として、経営者として、何を大切にしているのか。どんな姿を目指しているのか。丁寧に、もしくは楽しそうに語ってくれる人とそうでない人、どちらが入社したい企業と思えるかは明白だと思います。
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仕事経験がない学生にとっては、業務のイメージがしにくいぶん、ビジョン・ミッションの魅力が重要です。恋愛も同じですが、完璧な人だけが魅力的なのではありません。ダメなところもある。でも、良いところもあって、好意的な感情が生まれます。さらにいえば、たくさんの学生からの共感を得る必要もありません。数人の採用でいい中小企業では、100人中1人か2人に理念などに「いいな」と思ってもらえれば、それで十分です。迎え入れる学生に真摯に理念や会社のスタンスを語ること。おろそかにされがちですが、欠かせないポイントです。
3.一緒に仕事がしたいと思える経営者・社員のインターンシップ参加
中小企業になるほど、経営者の参加は不可欠と思ってもらって構いません。経営者自らがビジョンやミッション、そして仕事への姿勢や想いを語ることで、学生からの共感もより得られやすくなります。また、インターンシップ・プログラムを通じて、学生の仕事ぶりを自分の目で確かめられる利点もあります。若手の意欲ある社員の協力も重要です。
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意欲ある社員との出会いを通じて、意欲ある学生は自分のリアルなキャリア像をイメージすることができるからです。もちろん、意欲あるなしに関わらず、さまざまな社員と接することで組織の雰囲気が伝わり、社風に合う・合わないという判断も付きます。入社後のギャップも減り、離職率の改善にもつながるでしょう。
雑務を押し付けない。素敵な時間を届ける。
インターンシップに参加した学生たちが、感想を発表する場での出来事です。ある企業に参加した学生は「どの社員に話を聞いても何を大切にしているのかを語れるのが驚きでした」と答えました。しかし、別の企業に参加した学生は「インターンシップで気付いたことがある。あくまで仕事はお金のため。やりがいなんてないんだ」と答えたのです。
インターンシップでは、自社の良いところも悪いところも浮き彫りになります。「たかだか数週間、数カ月ではウチの良さが伝わらない」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、採用活動自体はもっと短い期間で決まります。悪いところを受け止めて改善できるかどうか。ここが、インターンシップで採用成功できる企業になれるかの分かれ道のように思います。
インターンシップで採用成功している企業にはいくつかの共通点があります。まずは、先程も挙げたように改善の意識があるかどうか。もう一つは、使い勝手のいい労働力として雑務ばかりをやらせるのではなく、教育機会だという大前提を理解し、成長につながるような素敵な機会をつくろうとしているかどうか。さらには、作業一つとっても仕事の意義をしっかり伝えられているかどうかも大事です。
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「仕事の意義なんて社員に話したことない。私にとって当たり前だったから。ただ学生から素朴な質問をもらって答えていたら、会社のことを語れるインターン生になっていた。そこから、社員に対してもビジョンなどを話すようになった」。ある企業の社長からは、こんな感想をいただいたこともありました。
インターンシップは人材を集める手段ではなく、人材が集まる会社になるための手段です。この考えを出発点にして取り組めば、結果的に若者への教育効果は高まりますし、自社の採用ブランドも高まっていきます。いきなり人気企業にはなれません。インターンシップの継続的改善を通じて組織体制を整え、応募者の実力を測る目利き力を鍛えていく。採用力の高い会社に変わっていくための手段として、インターンシップを導入することは、本当に効果的だと思います。
話を聞き終えて
人材流動性が高まり、リモートワークなどの普及も相まって、地方企業への就職が現実的な選択肢となる時代が来ています。一方で歯止めのかからない少子化。人材獲得競争はますます激しくなるでしょう。企業成長にインパクトを残す人材を採用するために、インターンシップは地方の中小企業にとって、採用力を高める施策となるはずです。プログラム内容を工夫する、ビジョンを語る、経営者やエース級社員に協力を仰ぐなどのいくつかのポイントを押さえれば、優秀な人材の獲得は決して不可能ではありません。ぜひこの機会を逃さずインターンシップにチャレンジしてみてください。