中小企業採用担当者の
リアルなお悩み相談室
採用活動にはSNSや動画が必要な時代ですが、人手も予算も足りず活用できていません。どのように始めたらいいでしょうか?
回答者プロフィール
平石俊介
みせウェブ https://miseweb.jp/
主宰
駒沢大学文学部心理学科卒。飲食店、通信大手キャリア営業職を経て、 株式会社リクルートライフスタイル (現株式会社リクルート)に入社。 2020年、リクルート時代の同僚と株式会社conexioを設立し、採用コンサルティング・採用マーケティング支援・DX推進に携わる。2022年2月に独立。
「SNSは目的達成のための手段であり、ユーザー視点が重要」という考えのもと企業の集客・採用のSNS運用を支援している。
読むよりも見る時代。採用活動においても、企業の紹介動画等を作成し、YouTubeやSNSで公開した方がよいのではないかと思うのですが、人手が足りず、予算も回らず、作成に至りません。何かよいアイデアはないでしょうか?
(山口県山口市/非公表/非公表)
SNS運用は採用戦力の一つ。大切なのは「リアルな姿」を伝え、求職者に安心感を与えること
採用活動において、SNSや動画の活用は欠かせない時代になりました。多くの企業が、従来の求人サイトなどの採用広報に加え、SNSを通じて企業の魅力を多面的に伝えることを目指しています。
SNSや動画を使うメリットは、企業の「リアルな姿」を求職者に伝えられることです。テキストや写真だけでは伝えきれない企業の日常の雰囲気や社員の働き方、職場環境などを見せることで、求職者が「自分がその会社で働くイメージ」をより具体的に持つことができ、応募を促すきっかけになります。
このようにSNSや動画を使った採用活動に期待しながらも、ご質問者のように、人手不足やコストとの兼ね合いの中でいかに自社をアピールしていくのか悩んで、運用をスタートできずにいる企業も少なくありません。
具体的にどうすれば無理なくSNSや動画の活用を始められるのか、考えてみましょう。
まず「動画制作は高額な費用がかかる」というイメージを持っている方も多いかもしれませんが、必ずしも高価な設備や、専門的な知識が必要なわけではありません。
最近ではスマートフォンだけで、高品質な動画を簡単に作れるアプリがたくさん登場しています。専用のクリエイターやカメラマンがいなくても、手軽に動画制作が可能になりました。
InstagramやTikTokのショート動画であれば、スマートフォンで撮影して簡単な編集を加えるだけで、十分にクオリティの高いコンテンツが作れます。YouTubeは制作工数がかかり、初めての動画制作にはハードルが高いので、コスト面や技術面への懸念が強い場合は、まずはスマートフォンでできる簡単な動画から始めて、徐々に慣れていくのが良いでしょう。
実際にAIサーチをしている様子
実際にAIサーチをしている様子
次に、時間や人手が足りない場合ですが、AIツール(ChatGPT、Google Gemini等)を使って、投稿スケジュールや投稿文を考えてみてはどうでしょう。最初は下書きレベルの仕上がりかもしれませんが、最近活用が進む生成AIは学習するので、投稿の質も上がっていきます。数千円から使えるツールもたくさんあるので、うまくAIを活用してSNS投稿のハードルを下げていくことをおすすめします。
どんな投稿をすればいいか悩んで手が止まったら、他社の事例を参考にしてみるといいでしょう。同業種や競合他社の成功事例や、SNS投稿を研究すると、自社の運用のヒントがたくさん見つかります。
SNSの運用を開始すると、初めはフォロワーが少なく、投稿に対する反応もあまりないかもしれません。ですが投稿を継続することで企業の認知度や信頼感も高まっていきます。
私がSNS運用を支援する企業さんは、普段の仕事の様子や社員の声などに加えて、企業理念をInstagramのリール動画で紹介を続けたところ、理念や文化を理解した応募者が増えたそうです。そうした投稿を見たうえで応募された方は、入社後のギャップが少なく、すぐに活躍してくれて、離職率も低くなっているといいます。
いざアカウントを開設して運用をはじめてみると、「バズらせたい」「できるだけ自分たちのことをよく見せたい」と編集に凝りすぎてしまい、更新が止まってしまうといったお悩みもあります。
SNSでは案外、「しっかり作りこまれた会社紹介」よりも、素人がちょっと頑張って作った投稿のほうがユーザーには好まれる傾向があります。編集を頑張り過ぎる必要はありません。
SNS運用は、すぐに結果が出るものではありません。企業の動画が「バズる」ことはありますが、それは偶然の産物であり、再現性は低いものです。本来SNSは、「育てるメディア」です。「バズ」や短期的な成果に目を向けるのではなく、1年から2年のスパンで運用を続けていくことを目指してください。
SNSや動画は、あくまで「採用戦術の一部」です。SNSで発信を続けていても手応えがない場合は、SNSにフォーカスし過ぎず、採用プロセス全体を見直す目も大切にしてください。例えば、どの段階で求職者がつまずいているのかを分析する。「そもそも認知されていない」のか、「知っているが興味が湧かない」のか、「興味は持っているが応募に繋がるほどではない」のか。あるいは「応募に至る手前でつまずいている」のか。
大切なのは、ユーザー(求職者)の視点を常に意識すること。求職者はいろいろな情報を浴びて感度も高くなっていますので、企業がいいことばかりをSNSに並べていても、「これは盛ってるな」と見透かされてしまうものです。
「こんなことをやっているよ」「こんな面白いところだよ」と、企業が伝えたいことを一方的に発信するのではなく、求職者が本当に知りたい情報や、興味を持つ内容を理解し、提供する。例えば、会社の魅力や働きやすさだけでなく、社外での活動や地域の特色など、求職者が「働くこと」を具体的にイメージできるようなコンテンツもよいでしょう。地方ではそうした情報を発信している企業はまだまだ少ないので、率先して取り組んでみると差別化が図れます。
採用のカギを握るのは、求職者が自分自身の将来をイメージできるかどうかです。SNSや動画はそのための一つの戦術であることを理解し、他の採用プロセスと連携しながら取り組みを始めてみてください。人手不足、予算不足という中でもできることは見つかるはずです。
※この記事に掲載されている情報は、2024年12月にサイトに公開した時点での情報です。