中小企業採用担当者の
リアルなお悩み相談室

合同企業説明会で接触を持てても、
次のステップに来てくれない

回答者プロフィール

長山大助
株式会社ビスタワークス研究所 ネッツトヨタ南国 採用共育担当  http://vistaworks.co.jp/
執行役員

東京での建設資材勤務を経て、2001年にネッツトヨタ南国に中途入社。営業を経験した後、採用・教育部門に配属となる。2010年より同部門が独立し立ち上がった、採用・教育の専門会社、株式会社ビスタワークス研究所に転籍。

合同企業説明会で接触を持てても、次のステップに来てくれません。しつこいのも嫌われると思い、月一程度のメールや、企業パンフレットなどを郵送したりしましたがリアクションがありません。説明会では笑顔もあり、雰囲気も良かったと思うのですが…。企業理解を深め採用試験に来てもらうには、どうしたら良いでしょうか?

(鹿児島県霧島市/サービス業/社員60名程度)

「選ぶ採用から、選ばれる採用へ」の転換が人財課題の解決策。

ネッツ南国は高知県にある自動車ディーラーです。これから日本中が迎える高齢化や少子化などの社会問題が他県より10年早く訪れる課題先進県とも言われています。また自動車ディーラーは昔から学生に不人気な業界としても知られ、採用に不利と言われる環境下でありながら、採用活動を企業経営における最も重要な業務の一つと位置付け、42年に渡り全社員で取り組んで参りました。その試行錯誤の繰り返しから生まれた一つの意見として回答させていただければと思います。

合同企業説明会は、学生と会社との一期一会の機会です。学生たちは数多くの企業情報を獲得しようとブースを訪問し、会社もより多くの学生と出会いたいと工夫を凝らして臨んでいます。学生は合同企業説明会の会場で複数の会社を訪問し、その中から「もう一度会ってもいいかな」という会社を選びます。自社のブースを訪れた際に好感触だった学生もその後、複数社を訪問するうちに、より魅力的な会社に印象を上書きされてしまうことが多々あります。

学生が一度の合同企業説明会で訪問するブースは多い人で5社前後。つまり接触した5社の内、上位の印象を残せないと学生は今後その会社からのアプローチを受け取りません。学生は就職活動を進めるにつれ、出会う会社を増やしながら、同時に絞り込みもしていくのです。

今回は合同企業説明会から次のステップに進めることのご相談ではありますが、最終的には入社して欲しいという前提があるはずです。当たり前のことですが、就職活動で学生が入社する会社は1人1社のみ。その学生から1番に選ばれないと採用はできないのです。

近年、地方都市の合同企業説明会は来場する学生が減少の一途をたどっており、高知県でも顕著にそれを感じます。これからの時代は大量の母集団形成からの選考など叶いません。いかに精度の高い(自社にマッチした)コンパクトな母集団をつくり、その学生たちに熱心に関わるかが重要です。

2023年卒の新卒求人倍率を見ると従業員300名以下の中小企業の求人倍率は5.31倍となっています(リクルートワークス研究所「第39回ワークス大卒求人倍率調査(2023年卒)」より)。これは1名の学生に対して、約5社が募集の手を挙げている状態です。つまり1名新卒を確保したければ5名に内定を出すか、5社のうち学生から1番に選ばれる企業しか、新卒を採用できないということです。しかし現実的には学生が大挙して応募するような人気企業でもなければ、前述の大量内定出しは現実的ではありません。私たち中小企業がこれから新卒学生を迎え入れていくためには、複数社の中からでも1番に選ばれる「魅力的な会社になる」ということしか選択肢はないと思います。

私は企業の活動は、会社という船に乗って大海原を駆け巡る冒険のようだと考えています。つまり採用活動は乗組員の募集ということになります。そう考えると安全・安心・快適重視で、福利厚生や待遇を軸に会社選びをする就活生は、乗組員というよりもお客様に近いかもしれません。冒険の船にお客様を乗せてしまうと大変です。お客様は、嵐(会社の一大事)が来て船が揺れたら下船(退職)したいと言うかもしれません。嵐の時にこそ頑張るのが本当の乗組員(社員)のはずです。

ではどうすれば本物の乗組員を迎え入れることができるのか。自社が本当に出会いたい若者の心に、ズシンと響く共感を呼ぶメッセージを打ち出す必要があります。

冒険で大切なのは「どんな仲間と」「何を目指すか」ではないでしょうか。ネッツ南国ではここを最重要視してメッセージしています。これは学生が部活動を頑張ってきた理由とも似ているのではないかと思います。学生が損得なしに本気で打ち込んできた「頑張りたい!」という気持ちに訴求するのです。

自動車ディーラーは、同業他社と差別化を図るのが非常に難しい業界です。商品は同じ、価格も納期も一緒です。車検など整備業務を取り巻く法制度や、自動車保険・登録業務などにも独自性はありません。つまり、業務だけを見れば99%同業他社と同じなのです。

ではネッツ南国らしさとは、自社の魅力や独自性とは何か。なぜお客様から選んでいただけているのか。ここを再定義してブランディングしていくことが、採用活動でも重要です。採用活動の本質は自社の魅力を磨き『良い会社づくり』をすること以外にはありません。良い会社づくりの進捗に応じて見合った学生が乗組員として仲間に加わります。しかしこれは、完成された会社にならなくてはいけないということではありません。企業の活動は冒険ですから、大切なのは現在地ではなくて「誰と何を目指すか」という到達点のイメージです。魅力的な冒険の物語を語ることができれば、学生は必ず自社を選んでくれるはずです。

話を合同企業説明会に戻します。ネッツ南国では、自社ブースで一方的な企業説明のプレゼンはしません。ブースに来てくれた学生たちと個別に対話します。その内容は、就活のこと、趣味のこと、部活のこと、学校生活のことなど様々です。働くことや理想の人生についてお互いの価値観を伝え合います。こうした擦り合せを行うことで価値観の合わない学生は自らの意志で離れ、価値観が合致した学生は、共感で繋がった強い母集団になるのです。職業の専門能力は入社後に開発可能ですが、考え方や価値観を入社後に変えるのは非常に困難だからです。

少々テクニカルな話になりますが、次に会う約束を取り付けることも重要です。学生の悩みなどをお聞きしながら、その解決策の提案として自社の企業体験会に誘致するのです。当社では朝から夕方まで会議室に籠って、1万個のドミノ倒しに社員と一緒に挑戦する「缶詰ドミノ」という体験会を開催しています。

一般的に単独企業説明会と言えば、採用担当者や社長から企業概要を聞き、現場見学や業務体験をするものが多いようですが、前述の通り当社の業務は独自性がある訳でもありません。そこでネッツ南国ならではの体験の機会が必要です。

企業説明会で半日くらい仕事のお試し体験をしても醍醐味をつかむことはできません。それならば、学生も素人、私たちも素人として同じ土俵で取り組める内容にして、社員たちと一緒に「どんな仲間と何を目指すか」という協働を体験してもらう方が、この会社で働くという体験に近いのではないかと考えています。

繰り返しになりますが、選ぶのは常に学生です。内定までは自社で選考したつもりでも、最終的に学生から入社を決めてもらわなければ辞退されてしまいます。合同企業説明会は一期一会。この刹那に自社が学生に何を感じ、どのような心の変化を起こしたいのかを考え、自社の魅力を独自性とともに打ち出すこと。これが「また御社とお会いしたいです」と学生に言っていただける、選ばれる採用活動の第一歩ではないでしょうか。