地方採用成功の鍵は、ズバリ
「経営者の本気度」だ!
ビジョナリーな採用計画立案と候補者口説きは
経営者の大仕事
地方企業が採用で成果を上げるには、経営者の採用活動への参加がひとつのポイントです。担当者に任せきりの採用に比べ、選考離脱率が下がり、内定受諾率が上がると言われます。
なぜ経営者の本気度が重要なのか、経営者が本気を出すべきポイントはどこなのか。地方企業の採用活動を、伴走型で支援するmichinaru株式会社の菊池龍之氏に寄稿いただきました。
経営にとっての採用の本気度は?
経営者の集まるセミナーで「皆さん、採用は大切ですか?」と聞くと、全員がうなずいています。どんな人を仲間にするのかは、経営にとって大きな決断です。しかし「経営者としての仕事の中で順位を付けるとするとどうですか?」と聞くと、答えはバラバラです。経営にとって今何が重要な取り組み課題であるかは、その時期や状況によって変わってきます。ただ、採用がうまくいかない、と困っている会社があるならば、経営者がもっと本気を出していく必要があるかもしれません。そして、経営者が本気で採用に乗り出している会社の方が、間違いなく早く成果が出ます。
地方企業の採用活動の難易度は上がっている
首都圏の有名企業が、地方の優秀な学生の獲得に乗り出す事例が増えています。またコロナウイルスの影響でオンライン化する採用活動は、地方と首都圏の物理的な距離をなくしました。今後はさらに就職先の選択肢は広がるでしょうし、採用上のライバル企業は増えるのではないでしょうか。
さらに学生の就職パターンが多様化し、就職ナビサイトに掲載して、合説に参加しておけば、自動的に学生がやってくる時代ではなくなりました。
企業の方から欲しい学生に対してアプローチしなければ、誰からの応募もないという事態も十分にあり得るのです。就職する学生の数もこれから年々減っていく中で、会社の未来を担う若者の採用は、地方企業にとってますます難しくなっていきます。こうした市場の変化を経営者が理解せずに、採用活動を現場に任せているだけの状態は、非常に危ういです。
経営者は採用活動のどこに本気を出すべきか
では、経営者は採用活動のどの部分に本気を出して取り組めば良いのでしょうか。経営者一人が採用に熱心に取り組む会社もありますが、むしろ就活生には、「ワンマンな会社なのでは?」とか「現場はどうなっているのか」という不安が残ります。私が考える経営者の本気は、以下3つにあると考えます。
1.採用に取り組む理由を定める
「なぜ我が社は新卒採用に取り組むのか」。この問いは採用戦略の一丁目一番地です。
しかし、多くの会社がこの大切な問いをないがしろにして、採用活動を始めてしまいます。そして、この問いへのアンサーは、どこまで視座を上げられるかが重要です。つまり、「現場に人が足りないから」ではなく、会社の向かっていく方向、目指したい組織の姿などから、新卒採用が必要な理由を考えることが必要です。そして、その理由をきちんと「言葉」にしましょう。「毎年やっているから」とか「中途より採りやすい」などの理由ではない、新卒採用を行う必然性は何でしょうか。会社全体の採用への本気度が、この理由一つで変わっていきます。
盛岡市での採用ワークショップでお会いした造園会社の社長は、「美しいふるさとの創造」を掲げ、この思いに共感する若手社員を採用することに決めました。新卒にこだわった理由は、美しいふるさとを30年、40年と時代に合わせて創り続ける同志が欲しかったからです。皆さんの会社の「採用に取り組む目的」は何でしょうか。経営者が社員と一緒になって考えてみてください。
2.現場の社員を採用に協力させる
採用に本気な経営者は現場を動かします。説明会や面接を採用担当や役員だけで行うには戦力が足りません。学生の「知りたい」の一つに、現場の声・雰囲気があります。
働く職場の様子を伝えるためには、現場で活躍する社員に説明会や選考の場面で学生との接点を持ってもらうことが大切です。しかし、現場で活躍している社員は忙しいので、採用担当の依頼だけでは協力を得ることが難しかったりします。
そのために経営者から「採用の意義」を語ることで、彼らに採用チームに加わってもらいましょう。私は採用活動に従事することは、社員のモチベーションの向上にもつながると考えています。仕事の意義や世の中への貢献を言葉にすることで、学生に話している社員本人が動機づけられます。また自社について語ることは、現場の仕事の世界から視座を一つ上げることに通じます。社員が採用活動に協力することは、採用成功のためだけでなく、社員が一皮むける経験としても効果的です。
3.意志決定を促す
経営者の最後の本気の出しどころは、クロージングです。入社するか、しないかは学生本人が決めますが、その意志決定を支援することは私たちにもできます。とりわけ経営者の言動は大きなインパクトを持ちます。最後に私の経験を紹介します。
2000年、大学生の私は大阪の小さなベンチャー企業の選考を受けていました。すでに他社の内定を持っていたこともあり、その会社にそれほど強い思い入れがないまま最終面接に臨んでいました。最終面接には社長と、専務の2人。順調に受け答えができたな、と手応えを感じて面接を終えました。エレベーターに乗り込んだ時、見送りに来ていた社長が別れ際「よろしくお願いします」と深々と頭を下げたのです。
それまでいくつかの会社の選考を受けていましたが、社長のお辞儀を見たのは初めてで、驚きました。ただの学生に対して、経営者が心から必要としてくれている、そう感じました。エレベーターが1Fに着くころには、「この会社に入ろう」と心に決めていました。
採用活動にはいろいろな役割がありますが、経営者にしかできない仕事があります。経営者が本気になることで、東京の会社の内定を蹴って入社を決めたという話を何度も聞いてきました。欲しい学生に出会えたから本気で口説くのではなく、本気で口説きたいと思う学生に出会う採用活動をしよう、そう決めることがスタートです。
経営者の皆さん、未来を変えるために本気の採用を仕掛けてください。
michinaru株式会社 菊池龍之氏
1976年滋賀県生まれ。同志社大学卒業後、人材採用コンサルティングを手掛ける日本データビジョン株式会社でクライアント企業の採用支援と新規事業の立ち上げを経験。2011年に独立し、株式会社コヨーテ設立。延べ300社を超える企業の採用事例を調べ上げ、独自の採用メソッドを開発。2,000社を超える企業にそのノウハウを伝えてきた。2020年michinaru株式会社を設立。人事向けイベントの企画、コンサルティング、講演、執筆など幅広く活動している。