岡山県の株式会社WORK SMILE LABOは、50名以下の中小企業に特化した、「働き方支援」事業を行っている企業です。人材採用では、大手や他社と同じことをやっていては埋もれてしまうという発想から、とことんオリジナルな手法を追求した「イベント採用」で、全国から応募者を集めています。そんな独自の採用手法について、代表取締役の石井聖博さんに、お話を伺いました。


UIJターン者成功事例
訴求ポイントの工夫と独自の「イベント採用」で、ダイレクトリクルーティングによる採用エリア拡大&定着率向上

プロフィール
株式会社WORK SMILE LABO
石井聖博(いしい・まさひろ)代表取締役
1979年、岡山市生まれ。大学卒業後、キヤノンマーケティングジャパンに入社。2006年、家業である石井事務機センター(現・WORK SMILE LABO)に入社後、2015年より4代目として代表取締役に就任。事務機器販売という“モノ売り”から、良い働き方を提供する“コト売り”への業態転換を成し遂げ事業を牽引。2022年10月には、全国の中小企業の働き方を支援する「中小企業働き方支援協会」を設立し、SaaS企業と地方企業を結ぶプラットフォームの構築とともに、地方企業のDX、SaaSの地方展開支援を進める。
■現在の採用状況
当社は岡山県に本社を構える、明治44年に文房具販売で創業した114年目の企業です。私が代表取締役に就任した2015年から、事務機器販売や快適なオフィス環境の提案をする事業から、経営課題の解決を通じた「誰もが笑顔で働ける企業づくり」支援に業務を拡大しました。現在は、女性活躍やテレワーク活用の支援、DXやSDGs対応、人材採用や人事評価制度の支援など「働く環境」すべてに対応する事業を行っています。
現在の採用状況は、毎年新卒を5名程度、中途を3~5名程度採用しています。
特に新卒採用に関しては、応募者の約7割が他エリアからの応募となっています。
ここ10年くらい、採用で活用しているツールに大きな変化はありません。
就活サイトや合同企業説明会はもちろん、SNSや動画活用なども行っています。そんな中、採用できるエリアが拡大してきた要因は、ダイレクトリクルーティング(企業側から求職者に直接アプローチする採用手法のこと)の活用です。当社が「目に留めてもらえる」企業になれた経緯をお話しします。

一般的に良い人材を採用するには「母集団を大きくすることが重要」と言われますので、一時期は福利厚生や採用条件などで「働きやすさ」をアピールしていました。しかし、そのような呼びかけから採用した場合、内定辞退率や離職率が高くなることが課題でした。
ある時、仕事にやりがいを感じている社員については、自分自身でモチベーションを高め、自発的に仕事を覚えて仕事の幅を広げていけることに気づいたのです。
そこで最近は、福利厚生や採用条件などの話をするのをやめました。
自社のビジョンや理念を伝え、そこに共感して「自己成長したい」と考える人材を採用することにしたのです。そうすることで、母集団や応募者数は減りますが、結果的に内定辞退率や離職率が軽減し、人材が定着する環境が整えられるようになってきたのです。
■採用活動の中で工夫していること
選考手法も、大きく変えました。
かつては、1次選考から役員選考まで、3段階の面接を行ってきました。
一般的に多くの企業が実施している選考手法だと思いますが、面接官が変わるだけで毎回やっていることは同じです。もっと「自社に適した人材かどうかを判断できる採用手法」がないかを検討してきました。
近年実施しているのが「イベント採用」です。ワークチャレンジを略して「ワクチャレ」と呼んでいます。採用に3段階のステップがあることは同じですが、各ステップが面接ではなく「ワーク」になります。
最初のステップでは、当社社員と一緒に、社員の働き方を学習してもらいます。単に仕事内容を説明するだけでなく、実際に業務を体験して理解してもらいます。
第2ステップは、当社の取引先に同行して、課題のヒアリングから、どのような提案が必要となるのかを確認してもらいます。当然社員も同行しますが、クライアントの考えを引き出し、何が必要かを考えながらの打ち合わせを経験してもらいます。
最後の第3ステップでは、大きな会場を手配して、実際の提案をプレゼンしてもらいます。この一連の経験の中で、自分が実際に当社で働いた時のやりがいや厳しさを感じてもらい、自分に適した会社か判断してもらいます。当社としては「自己成長したい人物か」を判断します。
この採用手法に切り替えてからは、人材の定着率が向上し、社内全体の仕事の質も向上したように思います。

写真:イベント採用「ワクチャレ」の第1ステップと最終ステップ(WORK SMILE LABO提供)
私たちも、最初からこのスタイルに出会えた訳ではありません。
かつては、合同企業説明会からの応募者が多かったため、採用エリアも地元に限定していました。しかし合同企業説明会で、代表の私が繰り返し、会社のビジョンや採用手法について語っていたら、「面白い会社」としてうわさが広がり、2022年の山陽新聞社における岡山県新卒就職人気ランキングでは、地元銀行を抑えて第1位となりました。
大手や他社と違う採用スタイルを持つことで、大手や他社に埋もれることなく、逆に目立つことができたようです。
その余波は大きく、これまでの「働きやすさ」から「企業ビジョン」に訴求ポイントを切り替えたこととの相乗効果で、ダイレクトリクルーティングによる応募者エリアが、全国に拡大しました。当社は地方の中小企業ですが、このような採用環境まで持っていくことができました。
■今後のアプローチ
近年の地方の中小企業は、少子高齢化の影響から、応募者の母数が減少しており、非常に厳しい状況が続いています。採用に関する費用対効果を考えると、大手や他社と同じような手法は取れません。
だからこそ、「自分たち独自のやり方」を追求し、SNSや動画活用でも独自色を出せるよう重視していきたいと考えています。

だからこそ、「自分たち独自のやり方」を追求し、SNSや動画活用でも独自色を出せるよう重視していきたいと考えています。
当社は、自社の取り組み実績をクライアント提案に活かしているため、世の中の地方中小企業から目指していただけるような企業にならなければならないと考えています。
そのためには、他社から見て魅力的な「働く環境」を整えたいと考えています。
次なる目標としては、岡山県内で平均年収がトップになれるよう、収益を上げて人材に還元していきたいと考えています。
まとめ
背景には、事業で培われた「地方中小企業に対する、限られた予算内で効果が出せる手法」を自社で研究し、「成功事例」だけをクライアントに提供するスタイルがあります。まずは「自社で検証する」というチャレンジ精神が、今の独自スタイルを生んだベースにあると感じました。大手や他社と異なることをやるのは、勇気が必要です。しかし、働きやすさだけをアピールして応募者数を増やすより、現実を伝えて共感してくれる少数から厳選して採用するというスタイルで定着率を上げた実績は、離職率の高い企業が着目すべきポイントではないかと感じました。
法人プロフィール
法人名:
法人名: 株式会社WORK SMILE LABO
事業内容:
50名以下の中小企業に特化した、働き方支援事業
設立年月日:
1969年11月15日
スタッフ数:
45名(女性13名、男性12名、リモートワーカー20名/2025年9月現在)
ホームページ:
