香川県で介護事業を行っている株式会社シニアライフアシストは、「働き方改革」により離職率の低下と採用力の向上を実現しています。介護業界においては、離職率が高く人材採用が厳しいと言われていますが、「働き方改革」がどのように離職率と採用に影響を与えたのでしょうか。取締役・管理部部長の小西里美さんに、お話を伺いました。
UIJターン者成功事例
「働き方改革」で、離職率の低下と採用力の向上を実現
プロフィール
株式会社シニアライフアシスト
小西 里美(こにし さとみ)取締役・管理部部長
埼玉県の大学を卒業後、Uターンで香川県の介護事業所に総務として入社。一から会社作りに携わりたく、2004年に現在の株式会社シニアライフアシストのオープニングスタッフとして転職。管理部として、経理・総務・人事・採用などの経験を積み、2024年に女性初の役員に就任。働き方改革・健康経営・両立支援などの観点から、さまざまな施策に挑戦中。
現在の採用状況
当社は香川県で、「ロイヤルケア高松」という有料老人ホームを中心に、デイサービスセンターの運営や、福祉サービスに関する催事の企画・運営などの事業を行っています。介護業界では、人材採用だけでなく、離職者が多いという点でも厳しい状況が続いています。24時間365日、必要な人員を配置しなければならない介護施設において「離職」は大きな課題となっています。
採用に関しては、かなりの労力をかけています。そのため苦労して採用した従業員が、毎年のように離職していく状況に、常々「働く環境を整備しなければならない」と感じていました。そんな時期に「企業理念」の見直しが行われ、新しい「行動指針」が示されました。そこで新たな「行動指針」に応じた、「働き方改革」の流れが作られたのです。「働き方改革」を実施すると、離職率は減少に転じていきました。
改革に着手する前は18.3%あった離職率が、実施の翌年には12.2%になり、そこから数年経った現在では8.9%と、半減する状況になったのです。
一方、採用でも「働き方改革」の効果が実感できる状況になっています。
介護の中途採用においては、「前職で懸念に思っていた働き方を改善したい」という求職者が多い傾向があります。そのため、「前職での懸念点を改善できる制度がある」という理由から、当社を選んでいただけるケースが増えてきました。
また「働き方改革」を実施してからは、採用手法も変化してきました。
これまでの採用活動は、ハローワークや求人サイト、自治体・商工会が開催する合同説明会が中心でした。そこにSNSや動画活用、そしてインターンシップなども加えるようにしました。さらに「ワクサポかがわ」や「たかまつ移住応援隊」といった、香川県が実施している就職・移住促進事業も活用するようになってからは、採用エリアが広がりました。
「ワクサポかがわ」では、東京からの移住者を2名採用することができました。
この事業では、東京23区からの移住者に対して移住支援金100万円が助成されることもあり、非常に活力のある若手が採用できました。
採用活動の中で工夫していること
実際に「働き方改革」としてやったことは、「多様な働き方の提示」です。
香川県の「働き方改革」に関する事業では、県から社会保険労務士が派遣され、コンサルティングを受けることができます。この事業を通じていくつかの働き方を創出し、最終的に現在は38種類の働き方に増えています。
特徴的な制度として、「小1の壁に対応した時短シフト」があります。お子さんが小学校に入学した年の4月のみ、1日最小2時間の勤務を許容する制度です。
小学校に入学してからしばらくは、給食がありません。4月中旬までは、お昼下校となるので、お子さんの昼食準備が課題となります。そのため、朝2時間だけ勤務して帰宅することをも許容しているのです。制度を実施してからは、お子さんが小学校に入学した女性従業員全員が活用しており、非常に好評な制度となっています。
本社看板前でスタッフと
その他、「シニアライフサポーター制度」というキャリアアップに向けた制度も実施しています。こちらは、会社が指定した研修への参加や社内試験の合格、そして資格取得によって等級と給与が上がる制度です。
キャリアアップに関する制度を立ち上げると、上昇志向のある従業員が見えてきます。上昇志向のある従業員をしっかりと評価し、昇給させることでモチベーションが上がり、現場での士気向上に役立っています。
中途で転職してくる従業員の中には、前職で「スキルアップが昇給に結びついている実感がなかった」とか、「昇給する際の評価基準が分からなかった」などの声がありました。現在は従業員の70%程度が、この制度の研修を受けており、10~15%程度は社内試験も受けています。
この制度は正社員だけでなく、パート従業員も利用できるため、非常に喜ばれています。最近はパート従業員の離職率が低減し、採用の際にはこの制度の存在から、当社を選んでいただくケースも増えており、制度の効果を感じています。
今後のアプローチ
「働き方改革」により、離職率の低下と採用における効果は実感していますが、やはり介護業界の人材採用の厳しさは変わっていません。少子高齢化により、若い働き手は減少していますので、採用の厳しさはますます顕著になってきています。
そのため最近は、若者の声を直接聞ける場に出ていきたいと考えています。
採用現場では聞けない、若者の「生の声」を聞くことで、若者の意識の変化を感じ、採用にも活かしていきたいと考えています。
「外部の声を取り入れる」という点でいえば、採用に苦戦されている企業の方は、国や自治体の「認定制度」の取得を目指してみるのは、いかがでしょうか。
厚生労働省の「ユースエール」や「くるみん」などの働き方に関する認定を目指すことで社内の「働き方改革」が進みますし、認定後はいろいろな場で社名が公開されます。当社も「プラチナくるみん」認定を受けて、介護や働き方改革に関する講演・取材の依頼が来るようになりました。
先日、職場体験に来てくれた中学生の一人から「以前、小学校でシニアライフアシストの見学に来て、介護の世界に興味を持つようになって職場体験を希望しました」という話を聞きました。自治体の働き方改革や採用・移住促進事業なども含め、いろいろなところでの接点を強化することで、将来的に採用につながっていく可能性を感じています。
まとめ
株式会社シニアライフアシストでは、従業員の働き方に向き合い、自治体のさまざまな事業を活用することで、離職率の低下とUIJターン者採用を実現してきました。取材の中で「認定制度」の話が出てきましたが、いろいろなことにチャレンジしていると、それがきっかけで状況が好転する場合があります。同社は、社会保険労務士と相談しながら「働き方改革」を実施することで、離職率の低下と採用の向上を実現してきたということです。
ぜひ、人材採用に苦戦している企業の方は、何か社内に変化をもたらすチャレンジをしてみてはいかがでしょうか。
法人プロフィール
法人名:
株式会社シニアライフアシスト
事業内容:
介護付有料老人ホームロイヤルケア高松をはじめとする有料老人ホーム・デイサービスセンターの経営
設立年月日:
2003年11月5日
従業員数:
104人(2024年10月現在)
ホームページ: