兵庫県で、トンネルや橋梁工事に必要な骨組みなどの大型金属製品加工を行っている兵庫ベンダ工業株式会社は、本業の「モノづくり」とは異なる、映像事業や海洋産業といった「コトづくり」の新規事業を立ち上げることで人材採用に成功しています。「コトづくり」とは何か、そして開始したきっかけや採用における効果などについてお話を伺いました。
UIJターン者成功事例
採用の輪を広げた、若者との接点強化・活躍の場づくり
プロフィール
兵庫ベンダ工業株式会社
本丸 勝也(ほんまる かつや)取締役 事業本部長
早稲田大学大学院コンピュータサイエンス専攻修了(修士)。
外資系や大手企業、ベンチャー創業を通して自動運転車両の制御といった情報技術畑で活躍。家業の兵庫ベンダ工業株式会社を継ぐため、2014年より出身地の神戸に戻る。
兵庫ベンダ工業では事業本部長として海洋水産技術研究所(KAIKEN)や、映画・映像事業(CINEMA-EYE)に携わる。078KOBE実行委員など数々の社外委員を務める他、神戸大学V.School客員教授、名古屋大学未来社会創造機構モビリティ研究所 招聘教員も務める。子どもの頃から釣り好き、映画好きで今でも年100本程度は映画館での映画鑑賞を続けている。
現在の採用状況
当社は、兵庫県でトンネルや橋梁工事に必要な骨組みなどの大型金属製品加工を行う「モノづくり」と、映像事業や海洋産業などを通じて特別な体験や人間関係を深める「コトづくり」などの事業に取り組んでいます。
採用活動に関しては、「モノづくり」の現場におけるハローワークからの高卒採用以外は、一般的な求人媒体を活用した採用手法には注力していません。
「コトづくり」において、求人サイトへの掲載や合同企業説明会への参加も行わずに採用ができている背景には、日頃からさまざまな技術に興味のある学生や若者との接点構築と関係性の強化があります。このような手法に舵を切ったのは、変革の必要性を強く感じたことがきっかけでした。
当社は私の祖母が昭和57年に創業した会社ですが、リーマンショックで公共事業の受注が激減したことをきっかけに、経営発想の転換が求められていました。その当時、私は自分で情報技術系の会社を立ち上げており、経営が軌道に乗ってきた頃でしたが、幼い頃からかわいがってもらっていたベテラン工場長から「戻ってきて欲しい」と頼まれて、兵庫ベンダ工業に入り、変革を開始しました。
私は大学教員などもやっていた関係から学生との接点があり、その接点のあった学生と一緒に新しいビジネスをスタートさせることが変革のはじまりとなりました。映像事業部を作り、4Kや8Kに対応したマルチディスプレイの開発やライブ配信などのサービスを開始しました。これが「コトづくり」です。そのような新しいビジネスを発表する場で、さらなる若者との出会いが生まれ、興味を持った若者が次々につながって、飲食を共にするようなコミュニケーションを深めて、最終的に採用につながる流れへと発展していきました。
採用活動の中で工夫していること
特に「採用のため」という訳ではありませんが、自社の「コトづくり」事業を世の中に知ってもらうために、発表の場を設けるようにしています。そして、若者との接点を作り、知り合った若者が自由に使えるスペースを提供しています。
今日の取材もその場所で行っているのですが、動画配信のセットが組まれており、自分たちの取り組みを自由に配信できるようにしています。そのような場があると、動画配信に興味を持った若者が仲間を連れてやってくることがあるので、どんなことをやりたいのか話を聞きながら、チャレンジする場を提供しています。
私たちは学生との協業や、兼業によるフルタイム以外の働き方にも対応できるようにビジネスを組んでいるので、そのような若者とビジネスを通して関わるきっかけがつくりやすいのです。
「コトづくり」事業の映像配信の現場の様子
それらの結果、「コトづくり」の現場では、特に求人サイトへの掲載もせずに、人づてに欲しい人材の情報が伝わり、正社員の採用ができるようになってきました。
このような採用スタイルになってからは、採用エリアも広くなりました。
かつての「モノづくり」だけの頃は、地元エリアからしか採用できていませんでしたが、今は大阪や東京などの都市圏にも広がっています。採用する職種も広がり、技術系の人材だけではなく、法務部門の採用にもつながっています。
「コトづくり」での採用は、「モノづくり」との接点がないように感じられるかもしれません。
しかし当社では「コトづくり」採用者も、必ず「モノづくり」の工場体験をさせるようにしています。「コトづくり」で採用した社員はいろいろなことに関わる意識が高いため、「モノづくり」のサポートで現場や会議に入って気付いたことがあった際に、改善点のアイデアを出したり、自分たちの「コトづくり」事業で必要な金属加工を依頼したりと、両事業の活性化にもプラスな影響を与えているように感じます。
また当社では、子供の習い事代の半額を会社が負担する育児教育手当や、業績が好調になるとお弁当を支給する制度なども行っています。主に子育て世代のための制度ですが、このような福利厚生制度をはじめてから、「モノづくり」での離職率が低下しました。
工場の現場職員は、入社後3年くらいまでは一定数離職があるのですが、このような制度を開始してから、入社3年目以降の離職はほとんどなくなりました。また、入社予定の若者の保護者に対しても、「子育て世代の働きやすさ」という点で安心してもらえる利点もあると考えています。
今後のアプローチ
少子化により「モノづくり人材」の母数が減っているため、今後対策が必要になってくると考えています。そのためにも、より人のつながりを広げ、会社の魅力を訴求することが重要であると考えています。
今後チャレンジしたいこととしては、「社員食堂」と「海外展開」があります。当社は、農林水産分野に関わる事業も進めているので、その生産物を活用した社員食堂を作りたいと考えています。最近の若者は魚や野菜をあまり食べないということも聞きますので、自分たちの会社が関わった食材を使ったメニューを自社で開発し、社員みんなで食べるというのは、単なる福利厚生というだけでなく、新たな企業の魅力の訴求として採用にもつながるのではないかと考えています。
また「コトづくり」の現場では、「海外進出」も進めています。
現在映像事業では、 動画配信サービスなどと協業して、海外に目を向けた取り組みを進めています。地方の小さなグローバル企業として注目されるようになれば、それも採用にプラスになると考えています。
まとめ
兵庫ベンダ工業株式会社では、取締役の本丸さんが中心となって新たな風を起こしました。しかし最初の風を起こすために尽力したのは、当時大学生で現在の事業戦略部長 藤井祥平さん(1枚目の写真左)だったと伺いました。ひとりの大学生が自分のやりたいことを実現するために会社と関わりはじめ、その学生の意見を本丸さんが取り入れることで、相乗効果が生まれ、関係する人たちの輪が広がっていったそうです。この記事を読んで、自社には本丸さんのような人材がいないと考えた方は、まずはやる気のある若者との接点をつくることからはじめてみてはいかがでしょうか。その若者が、なにかヒントをくれる可能性は十分にあると思います。
法人プロフィール
法人名:
兵庫ベンダ工業株式会社
事業内容:
【モノづくり】鉄鋼・非鉄金属の加工成形・土木・機械・電子回路設計 【コトづくり】映像制作、イベント企画、運営業務、海洋・水産に関わる取組み
設立年月日:
1982年4月
従業員数:
50名(2024年4月現在)
ホームページ: