愛知県瀬戸市に本社をかまえる大橋運輸株式会社は、早くからドライバーの長時間労働の是正と、ES(従業員満足度)を高めるため、「健康経営」を実施してきました。また、多様な人材を積極的に採用して活躍を後押しする「ダイバーシティ経営」を推進するなど、人材の獲得と定着に努めてきました。これらと並行して事業を通じて地域課題の解決を目指す「CSV経営」も実践。結果、県内外から地域貢献に関心の高い人材からの応募が増加したそうです。代表取締役社長の鍋嶋さんに、これらの取り組みや、採用に対する思いを伺いました。
UIJターン者成功事例
「ダイバーシティ経営」など十数年来の取り組みが注目を集め、応募者増
プロフィール
大橋運輸株式会社
鍋嶋 洋行(なべしま ひろゆき)代表取締役社長
大学卒業後、地元の信用金庫に7年間勤務。その後、義父が経営する大橋運輸に1998年に入社、同年11月より代表取締役就任。運輸業界でいち早く、「ダイバーシティ経営」「健康経営」を実践し、数々の賞を受賞。「私たちは地域課題に挑戦する」を企業パーパスに、「CSV経営」や、様々な地域活動にも積極的に取り組んでいる。
現在の採用状況
当社は、法人に向けた陶磁器や自動車パーツの輸送業をはじめ、引っ越し、生前・遺品整理など個人向けのサービスも提供しています。また、本社を構える瀬戸市は高齢化率が30%近い(※1)ということもあり、「健康経営」の一環で、社員だけでなく、地域の方に向けて、無償で健康相談が受けられる場所を提供しています。
(※1)参考:第6次瀬戸市総合計画期間中における人口及び社会増減の推移
https://www.city.seto.aichi.jp/docs/2024/01/29/0050530788/files/01_jinkou.pdf
もともと個人向けのサービスは、輸送業の一環である引っ越しだけだったのですが、こうした地域活動など通して、生の声(ご要望)をお聞きし、生前・遺品整理サービスを新設しました。
ES(従業員満足度)向上の一環として取り組むようになった「健康経営」。15年以上続けていますが、社内で蓄えたノウハウを地域の方々に提供することで、新しいアイデアやビジネスが生まれました。こうした長期的に取り組むことで生まれるシナジーは「ダイバーシティ経営」にも感じるところです。
「健康経営」「ダイバーシティ経営」の導入は中小企業、しかも運輸業ではまだ珍しいということもあり、メディアでご紹介いただく機会が増えました。フックとなる部分は人それぞれですが、最近は社会貢献意欲の高い人からの応募が確実に増えたと感じています。
当社では「私たちは地域課題に挑戦する」を企業パーパスに掲げていますが、社会貢献に関わる場所として弊社を選んでもらえるのは光栄なこと。大学や高校に求人票を出していないのですが、応募者自ら弊社の取り組みを調べて応募してくれるというケースが徐々に増えてきました。その点、ミスマッチも少ないですし、6年連続で(UIJターン含む)新卒採用もできています。
CSR(企業の社会的責任)をはじめ、社会貢献というと大企業がするものと思われがちですが、こと地域課題の解決については、中小企業に優位性があると思っています。小回りが利くし、地域の状況も拾いやすい。地域のためになることはもちろん、採用やPR面でもプラスになります。中小企業の皆さまは、良い採用を実現するひとつの手段として、地域貢献活動を始められてはいかがでしょうか。
採用活動の考え方
当社のような中小企業は、大手運送会社や他業界の大企業と人材獲得競争をしても、とても太刀打ちできません。ですから十数年前から、他社とかぶらない多様で優秀な人材を採用するという方針を掲げています。キッカケになったのは、「1日4時間、週3日勤務」という募集をかけた際、子育てで休職中という人からの応募でした。もともと大手企業に勤務経験のある優秀な人で、これまでの「フルタイム」といった募集では来なかったタイプでした。
以降、採用に関して“仕事に人を合わせる”というのでなく“人に仕事を合わせる”という考え方を持つようになりました。それが実現できる環境を整える中で、今に続く「タイバーシティ経営」が形成されていきました。
採用活動については、昔は担当に一任でしたが、現在はチームを組み、会社全体で取り組んでいます。面談・現場見学などで様々な社員の人に関わってもらい、“全員で”という意識を育んでいます。
当社のようなダイバーシティ経営の導入に関して、他企業からご相談を受けることもありますが、担当を置いて一任、というパターンはやはり上手くいかない印象があります。中小企業であれば全員の目が届きやすいし、文化や意識の浸透もしやすい。実態として、会社全体で取り組んだ方が上手くいく確率が高く、ここにも小さい規模ならではの優位性があると思います。
採用活動の中で意識しているのは、応募者の方に「面接を受けて良かった」と思ってもらうことです。人をやる気にさせるのが採用活動時の私たちの仕事です。「今回、不採用だけど…」という方にも、できれば何かを持ち帰って欲しい。おせっかいかもしれませんが、応募してくれた方のやりたいことを一緒になって考えたり、中には「まずは散髪しよう!」と美容院代を奢ったりしたこともありました(笑)。
今後のアプローチ
「ダイバーシティ経営」「健康経営」に関しては、私たちも長年、悩みながら取り組んできたことです。私たちが培った経験やノウハウは、多くの悩まれている企業様に少しでもお役に立てるよう、今後も情報発信していきたいと思っています。「健康経営」というと、社員食堂を作るなど大規模なものを想像しがちですが、お金をかけず、中小企業ができる取り組みもたくさんあります。
「求職者に選ばれる企業になる」という意識を持ち、さらに多様な人材の、多様な特性が活かせる現場作りをしていけたらと思っています。
運輸業界といえば、男性偏重で、大変で…というイメージがあるかもしれませんが、それを変えていきたいという思いもあります。そのため(既存の)運輸会社らしくないことをするというのは常に意識しています。例えば地域貢献活動の一環として、地元警察と連携し、コンビニや電量販店に配布する特殊詐欺対策用の注意喚起のポップを作成しました。これが随分と効果があったそうです。「地方の小さな運輸会社」というイメージを逆手にとって、今後も新しい挑戦を続けていきたいと思います。
電子マネー売り場に置くことで、お店の人が、高齢者が特殊詐欺に遭っていないかの事前確認をするキッカケになっている。
まとめ
「物流の2024年問題」(※2)への対策が求められる運輸業界にして、早くして人材の獲得と定着に努めてきた大橋運輸株式会社。「健康経営」「ダイバーシティ経営」といった十数年来の取り組みが注目を集め、徐々に求職者に社名が届くようになっていきました。
「こうした取り組みに着手し、成果が出始めるまでには5~10年はかかります」と語る鍋嶋社長。ただ、時間がかかる分、簡単に真似ができない特徴になり得ます。信じたことを長く続けることが、やがて採用にも効果を発揮するのだと思いました。
(※2)「働き方改革関連法」によりドライバーの労働時間制限上限が規制。それによって引き起こされる諸問題のこと。
法人プロフィール
法人名:
大橋運輸株式会社
事業内容:
一般貨物自動車運送事業、貨物運送取扱事業、油脂仕入販売、一般廃棄物収集運搬業、産業廃棄物収集運搬業、引越サービス、物流情報サービス、労働者派遣事業、不動産賃貸業、古物売買など
設立年月日:
1954年3月17日
従業員数:
99名(2023年6月時点)
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