中小企業採用担当者の
リアルなお悩み相談室

初任給が低い地方企業が、首都圏の学生を採用するにはどうしたらよいでしょうか

回答者プロフィール

ナカムラケンタ
株式会社シゴトヒト https://shigoto100.com/
代表取締役

1979年東京生まれ。心地のいい場所には「人」が欠かせないと思い、2008年に、生きるように働く人の求人サイト「日本仕事百貨」を立ち上げた。2013年7月には東京・虎ノ門に「リトルトーキョー」をオープン。現在は東京・清澄白河に移転し、いろいろな生き方・働き方に出会える「しごとバー」を企画・運営している。主な著書に『生きるように働く』(ミシマ社)など。

求⼈票だけで比較されると、初任給の⾯で⾸都圏企業に劣ってしまいます。社⻑にはそのことを繰り返し伝えていますが、全社の賃⾦テーブルに関わることでもあり、すぐに改善するのは難しいと感じています。それでも⾸都圏学⽣を採⽤したい意欲は強く、どう突破していったら良いものか答えが⾒つかりません。

(秋田県秋田市/建築/社員20名程度)

地方企業の採用課題は、視野を広げて人と人の関係性作りから考えてみる

今回のご相談は地方企業や中小企業で共通する課題です。相談文面から見えてくる、いくつかのヒントから考えてみたいと思います。

まず、地方の建築業界は、今最も採用が難しい業界の一つで、ほかと比較しても圧倒的に人手不足です。そんな厳しい状況下で、さらに競争の激しいのが新卒採用です。

まずは視点を変えて、本当に首都圏学生の新卒採用にこだわらなければいけないのか?ということを考えてみてください。高卒や20代の中途採用、40代の採用は考えられないのか。採用年齢の幅を広げるだけでも、状況はだいぶ変わってくると思います。

それでも新卒採用にこだわるのであれば、地元の大学にしっかりアプローチしていくことが大切だと思います。

例えば、秋田県にある国際教養大学には、建築学科はありませんが、秋田で学ぶことでローカルな課題を本気で考える学生が多くいるそうです。

すでに秋田という地域のことをよく理解している学生に対して、アプローチできる方法がないか考えてみる。営業でも、新規顧客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかると言われますので、既存顧客からアプローチするのが鉄則ですよね。地元の大学の学生数や学部やゼミの取り組みを把握していない人事担当者は意外と多いので、もったいないと思います。

「地元の大学にアプローチしてもなかなか手応えがないから、学生数が多い首都圏を狙う」という意図もあるのかもしれません。確かに、正攻法でアプローチしても、多数の企業の中に埋もれてしまう可能性はあります。

ですので、求人情報を提供する相手(就職課の担当者など)に何か困りごとはないか、どんな情報を持っていったら喜んでくれるかを想定して、提案をしてみるといった視点も必要になります。

例えば、就職課の困りごととして、「キャリア教育の授業プログラムを考える」というものがあります。アイデアが集まらず、大手就職サイトの運営会社などに依頼するところも多いですが、自前の授業を実施したいと考えている担当者が多いのも事実です。

そのような困りごとに対して、複数の地元企業と組み、合同のインターン企画を提案してみてはどうでしょう。そうした提案や活動をきっかけに、就職課との関係が変わっていく可能性があるので、地元の大学の情報をしっかり把握し、縁を作る取り組みを始めてみてください。

 

それでも、やはり首都圏の学生にこだわるのであれば、ターゲットは「雇用条件も大事だけど、条件だけで選びたくない」と考えて、地方の企業に目を向けている学生になるでしょう。ですが、そうした学生には何千という選択肢があります。彼らに選ばれる企業になるには、どうしたらよいか。

私は、人と人の接点を作ることが大切だと考えます。観光地を巡るだけの旅行は1回きりで終わりますが、その地域に暮らす人と関係が生まれた旅行は、また訪れたいと思うものです。何度も訪れるうちに、そこは観光地ではなく「おかえり」と言ってもらえる場所になっていきます。そのような関係を、採用したい都心の学生と築ければ、選ばれる可能性は高くなるでしょう。では、どのように関係性を築くのか、考えてみましょう。

例えば、首都圏の大学のゼミと産学連携ができれば、学生に何度も足を運んでもらう機会を作れます。最初は、地域課題を確認するために訪れる場所に過ぎないかもしれませんが、地域の方と継続的な交流ができれば、「おかえり」「ただいま」と言い合う関係も目指せるはずです。

地方就職・地方移住の一番の課題は、縁もゆかりもない場所に来て、知り合いができず、悩みを誰にも相談できないまま離れていってしまうことです。移住者と地元の方が混ざり合うことはとても大切です。

例えば、ある地域でシェアハウスをつくることを企画しています。同じような移住者が集まるシェアハウスがあれば、勤務先以外にも話し相手ができます。短期滞在の人たちの受け入れもできるシェアハウスならば、地方移住に興味がある人が地域に暮らす人から話を聞ける場所にもなります。単に箱をつくっても会話は生まれません。ハード・ソフト両面でコミュニケーションをデザインすることが大切です。

生きるように働く人の求人サイト「日本仕事百貨」

生きるように働く人の求人サイト「日本仕事百貨」

人と人の接点作りとして、「地方にいる面白い大人」との出会いの場を作るのも大切だと思います。面白い大人との出会いは、地方の魅力に気づいてもらう機会にもなりますし、一緒に何かをやっていくというのもいいと思います。

例えば群馬県の北軽井沢では、福嶋誠さんが運営するスウィートグラスというキャンプ場があります。自分たちで森を育み、製材し、建材として利用したり、薪工場も運営したりしています。キャンプ場を中心に循環型の事業を営んでいます。

香川県の小豆島のヤマロク醤油は江戸時代から150年以上、木桶を使って醤油をつくり続けてきました。2020年に、醤油づくりに欠かせない「桶」をつくる職人さんがまもなく廃業することを知って、自ら桶をつくりはじめます。業界全体のことも考えて、木桶づくりは同業他社にも開放しました。

こうした面白いことをしている大人はどの地域にもいますが、自分の会社も「面白いことをしている会社」にできれば魅力も高まります。自治体、商工会と連携して移住促進のためのシェアハウス作りを考えてみるのはどうでしょうか。建築業界にいる御社だからできる面白い取り組みになるかもしれません。

私が主宰する「日本仕事百貨」では、給与が他社に比べて低い地方企業でも、採用がうまくいっている事例がたくさんあります。そうした会社は、事業内容や人間関係の魅力、会社の姿勢など、賃金以外の魅力を丁寧に伝えることで採用に至っています。賃金改訂以外にも、できることは必ずあるはずです。

 

【LO活プロジェクト事務局より】
ナカムラケンタさんのスペシャルインタビューが、以下の記事にてお読みいただけます。あわせてご覧ください。

▶LO活サイト スペシャルインタビュー「第28回 “生きるように働く”を求める人が、地方企業にも目を向ける理由」

 

※この記事に掲載されている情報は、2023年10月にサイトに公開した時点での情報です。